なぜなら汗水[1] たらした労働より、むしろゆとりをもった自由な思惟[2] が、技術の発明に好都合であることが多いからである。機械は人間よりはるかに勤勉ですらある。かくして、勤勉は、価値の王座からおちる。それと共に、繁栄ももはや価値の王座に、君臨することがてきない。なぜなら、繁栄は、現在、先進的資本主義国にはほぼ実現されはじめた価値であるからである。もちろん物質的繁栄には限りがないが、今、物質は先進国において、そろそろ過剰[3] になりはじめているのである。しかもその繁栄には、自然が犠牲に供されるのである。つまり自然を自己の意思によって征服することが、ここで繁栄の条件であるが、このように、人為により痛めつけられた自然が、人間に復習をしないかどうかが問題である。
今日、自然は、その調和を乱しつつある。緑の山野[4] は、一面に枯れ山となり、清流は濁流[5] となり、野生の獣はもちろん鳥や魚も一日一日少なくなる。大都会のコンクリート[6] の中にあって、人間が果たして生きることが出来るかどうかは、はなはだ疑問である。公害の問題は、そういう自然破壊の一つの現れであろうが、病はもっと根本的なところんいある。このような繁栄と自然征服という価値がゆらぎはじめてきているのである。
そして最後に進歩も文明の目標ではなくなる。進歩の思想において、未来は現在よりよくなるという観念がある。ここでは現在は現在として価値あるのではない。むしろ現在は、未来のために是認[7] されるのである。こういう人生観のみが価値をもつとき、われたは、父や母より価値あるが、われたの子はわれたより価値があるということになる。じじつそういう信念によって、進歩的な学生諸君[8] は、父母や教師や大学を否定した。
[1]汗水◎【あせみず】【名】
汗水。(盛んに流れ出る汗。···た、汗びっしょりになること。)
△汗水たらして働く。/汗水淋漓地劳动。
[2]しい【思惟】
(1)〔思考〕思考?
(2)〈哲〉思惟,思维,意识?
[3]過剰◎【かじょう】【名·形动】
过剩。(必要な、また···適当な数量や程度を超えていること。)
△人口過剰。/人口过剩。
△生産が過剰だ。/生产过剩。
△過剰人員に苦しむ。/苦于人员过剩。
△過剰物資。/过剩的物资。
[4]山野①【さんや】【名】
山野,山林原野。(山や野原。···やま。また、田舎。)
△山野···跋渉する。/攀山越野。
[5]濁流②【だくりゅう】【名】
浊流。(にごった水の流れ···)
△濁流がうずまく。/浊流···旋涡。
△あっというまに濁流···のまれた。/转眼间被浊流吞噬了。
[6]コンクリート④【こんくりーと】【名】【英】concrete
混凝土。
△コンクリート打ち。/混凝土浇筑。
△コンクリート流し込み。··浇灌混凝土。
△コンクリート··固める。/灌混凝土。
△鉄筋··ンクリートの建物。/钢筋混凝土建筑。
△コンクリート·パイル。/混凝土桩。
△コンクリート·ブロック。/混凝土(砌)块。
△コンクリート·プレーサー。/混凝土浇铸机。
△コンクリート·ブレーカー。/混凝土破碎机。
△コンクリート塀。/混凝土墙。
△コンクリート·ミキサー。/混凝土搅拌机。
△コンクリート道。/混凝土路,混凝土。
[7]是認◎【ぜにん】【名·他动·三类】
同意,认可。(よしと認めること。)
△是認しがたい。/很难认可。
[8]諸君①【しょくん】【名·代词】
诸位,各位。(多くの···々をさす語。主として男性が、同輩ないし、それ以下の人々に対し、軽い敬意の念をもって用いる。)
△紳士淑女諸君。/··位先生,各位女士!
△諸君の··力を期待します。/期望大家努力。