だから山里[1] を歩くようになったとき、私には解放感[2] があった。山里にはまた季節とともに暮らす人々がいた。春になって木や草や鳥や虫たちがいっせいに活動しはじめるさまは、まるで土や大気[3] や水の中から命が湧き出してくるかのようだ。そのころ山里の人々の活動も始まっていて、自然が生命活動を閉じる晩秋に山里は静寂[4] を迎える。
もしかすると、こんな暮らし方を、文明の発達は、自然に制約されない人間の営みをつくりだしていく過程でもあったのだから。一年じゅう同じリズムで稼働[5] する都市や工場の存在は、発達した文明の象徴でもある。そして実際には、山里でも自然に制約されない労働や暮らしの部分が拡大してきている。
別にそれを非難しようというのではない。人間が季節を克服していくのは、人間の自由だ。しかし私たちの背後には、季節とともにしか存在しえぬ自然の世界がある。そして人間は自然の恩恵を受けながら暮らしている。とすれば人間はどれほど文明を発達させようとも、かたわらで季節と共存し、季節としての時間の流れを引き受けなければならないのではないのか。
春になると息を吹き返し、秋にはその活動を縮小[6] していく時間の流れ、もしそれを人間たちが引き受けなくなったら、おそらく自然は荒廃していくだろう。人間たちが自然を一年じゅう同じように扱ったら、自然は壊されるばかりである。
文明の発達度が低いほど、季節としてあらわれる一年の時間の流れと人間の暮らしが調和していたというのは、人間の歴史の皮肉[7] でもある。いや、それ以上に人間たちはいまでは、季節という時間の流れを克服した自然をつくりだそうとしているのかもしれない。
[1]山里◎②【やまざと】
【日本地名】【名】
山村,山中的村庄。(山中の人里。)
△山里にも春が来る。/山村亦有春至。
[2]解放感【かいほうかん】
束縛を解かれてほっとした感じ。
[3]大気①【たいき】
【名·形动】
(1)大气,空气。(地球をとりまく気体の層。)
△大気は地表から遠のくほど希薄になる。/离地表越远,大气就越稀薄。
△すがすがしい朝の大気。/早晨清新的空气。
△大気圏。/大气圈;大气层。
△大気圏外。/外层空间。
△大気汚染。/大气污染。
(2)度量大。宽宏大量。(心の大きいさま。細かいことにくよくよしないさま。大度。)
△大気な人。/宽宏大度的人。
[4]静寂◎【せいじゃく】
【名·形动】
寂静,沉寂。没有声音。(静かなこと。ひっそりとしていること。)
△夜の静寂を破る。/打破夜的沉寂。
△あたりは静寂に包まれている。/四周一片寂静。
[5]稼働◎【かどう】
【名·自他动·三类】
(1)劳动。(稼ぎ働くこと。)
△稼働人口。/劳动人口。
△稼働日数。/劳动日数。
(2)运转。(機械を動かすこと。)
△稼働中である。/正在运转。
△稼働時間。/运转时间。
[6]縮小◎【しゅくしょう】
【名·自动·他动·三类】
缩小,缩减。(ちぢまって小さくなること。ちぢめて小さくすること。)
△軍備縮小。/裁减军备。
△人員を縮小する。/裁减人员。
△この不景気で経営規模の縮小を余儀なくされた。/因这次经济萧条不得不缩小经营规模。
[7]皮肉◎【ひにく】
【名】【形动】
(1)挖苦,讥讽,讽刺(非難)(いやがらせを言う);嘲讽(あざける),『成』冷嘲热讽。
△鋭い皮肉。/尖锐的讽刺。
△皮肉な言葉。/讥讽话;讽刺语。
△皮肉な笑みを浮かべる。/脸上露出讥笑(讪笑,冷笑)。
△皮肉を言う。/说讽刺(挖苦)话;讽刺;挖苦。
△皮肉に聞こえる。/带讽刺味儿。
△それは皮肉ですか。/您是损(讽刺)我吧?
△彼の演説には皮肉がまじっていた。/他的演说里夹杂着讽刺。
(2)(運命などが)令人啼笑皆非。
△何たる皮肉な世の中だ。/多么富有讽刺意味的世道!
△皮肉にもきょうは大雪だ。/天气捉弄人,今天下了大雪。
(3)皮和肉(皮と肉)。
△むちは風をきって所きらわず雨のように馬の皮肉をたたいた。/皮鞭嗖嗖地雨点般胡乱抽打马的皮肉。
这里缺少了半句,第二页 もしかすると、こんな暮らし方を、文明の発達度が低い証というのかもしれない。
不错