覚えている。すべて覚えている。
あの日、阿佐緒は寒がっていた。日差しは強かったとはいえ、時折、吹き抜けて[1] いく風が思いのほか[2] 冷たい日だった。七分袖[3] になった美しい芥子[4] 色のワンピース[5] を着ていた阿佐緒は、客の目にふれないところで両腕[6] をこすって[7] は「鳥肌[8] が立っちやう」と言って笑ったものだ。
あの日、私もこの家のどこかにいた。どこかにいて、これと同じ風景を見ていたはずだった。
そう思うと、ふいに床がゆるやか[9] に波打って[10] 、立っていられなくなるような錯覚[11] にとらわれた。
手紙をありがとう。まさかあのような場所で、あなたと会うとは思ってもみなかったので驚きました。八年ぶりだったそうですが、確かに計算してみると、その通りですね。早いものです。
そのうち、僕のほうから連絡するつもりでいたのですが、ここのところ[13] 仕事が重なり、遅くまで帰れない日が続いて、休日は阿呆のようにぽんやりするばかりでした。あなたに限らず、誰かに手紙を書くことはおろか、電話をする気力[14] もわかず、それでいながら自分でも説明のつかない漠然[15] とした焦燥[16] 感にかりたてられて、じっとしていられない日々が続いていたところです。ともあれ、そんな折だったこともあり、手紙は本当に嬉しく拝見しました。
あなたが手紙の中で指摘していた通り、僕はああいう華やいだ場所は苦手で、逃げるように帰ってしまったくせに……そして、ろくに阿佐緒と話もしなかったというのに、僕の中に巣くう[17] 阿佐緒の面影は、あの日以来、ますます大きくなってしまったような気がしています。いい年をした男が、餓鬼[18] のころからの淡い思いを未だに引きずっているというのは恥ずべき[19] ことに違いありません。ですが、正直なところ、あんなパーティーには誘われても行かなければよかった、と後悔にかられる[20] 始末。
[1]吹き抜ける④【ふきぬける】
【自动·二类】
(风)刮过,穿过。(風が通り過ぎる。)
△北風が路地を吹き抜ける。/北风刮过胡同。
[2]思いの外【おもいのほか】
【惯用语·副】
出乎意料地,意外地。(考えていたことと違っているさま。案外。意外。)
△思いの外の好成績。/出乎意料地好成绩。
[3]七分袖【しちぶそで】
〈服飾〉中袖
[4]芥子◎①【かいし】
【名】
芥菜子。(カラシナの種子。乾燥させ粉末にして香辛料のほか、薬用にする。がいし。)
△芥子油。/芥子油。
△芥子泥。/芥末糊,芥末泥。
[5]ワンピース③【ワンピース】
【名】【英】(one piece)
布拉吉,连衣裙。(上着とスカートが一続きになった婦人、子供服。)
[6]両腕◎【りょううで】
【名】
双臂;双手;工作上的有力助手。(左右両方の腕;ある人の仕事を全面的に助ける者の意にも用いられる。)
△両腕骨折して入院した。/双臂骨折后住院了。
[7]擦る②【こする】
【他动·一类】
摩擦,擦;揉搓;蹭(物に他の物を押し当てて何度も動かす。摩擦する)。
△消しゴムでこすり消す/用橡皮擦掉。
△泥をこすり落とす/把泥土搓〔蹭〕掉。
△あかを擦る/擦污垢。
△やすりで擦る/用锉刀锉。
△目をこすって眠気を覚ます/揉眼睛解困。
△このしみはいくらこすっても取れない/这块污垢怎么搓也搓不掉。
[8]鳥肌◎【とりはだ】
【名】
鸡皮疙瘩。(寒さや恐ろしさ,あるいは不快感などのために,皮膚の毛穴が縮まって,鳥の毛をむしったあとのようにぶつぶつが出る現象。総毛立つこと。体温調節反射の一つ。)
△恐ろしさに鳥肌が立った。/吓得起鸡皮疙瘩。
△急に寒いところへ出ると鳥肌が立つ。/猛然一到冷的地方,身上起鸡皮疙瘩。
[9]緩やか②【ゆるやか】
【形動】
(1)缓慢,缓和。(傾斜が急でないさま。なだらか。)
△緩やかな流れ。/缓慢的河流。
△緩やかにカーブする道。/慢弯的道路。
△傾斜の緩やかな坂。/慢坡;陡度小的坡。
(2)宽松,宽大。(きびしくないさま。寛大なさま。)
△審査基準を緩やかにする。/放宽审查标准。
(3)舒畅。(のびやか。)
△緩やかな気分。/舒畅的心情。
[10]波打つ③【なみうつ】
【自动·一类】
(1)起波浪。(波が打ち寄せる。波がたつ。波を打つ。)
△波打つ海岸。/波涛拍岸的海边。
(2)波动,起伏。(波のように、高く低くうねる。波のように上下する。波を打つ。)
△胸が波打つ。/心潮起伏。
[11]錯覚◎【さっかく】
【名·自动·三类】
错觉;错误的观念;误会,错认为。(事実とは異なるが、そうであるかのように思うこと。思い違い。)
△錯覚に陥る。/陷入错觉。
△目の錯覚。/眼睛的错觉。
△錯覚を起こす。/产生错觉; 产生错误的观念。
△声が似ていたので兄かと錯覚した。/因为声音相似,就错以为是我哥哥。
[12]前略①【ぜんりゃく】
【名】
(1)(书信用语,以此省去前面问候客气话)前略。(手紙文で、冒頭の時候のあいさつなどを省くという意で用いる語。)
(2)引用文章时的省略前段文字。(文章の前の部分を省略すること。)
[13]此処の所【ここのところ】
暂时;[目下]目前,眼下.暂时,目前,眼下
[14]気力◎①【きりょく】
【名】
气力,精力;元气。魄力,勇气,毅力。(活動に堪え得る精神力。気根。また、元気。精力。)
△気力がある。/有精力。
△気力が旺盛だ。/精力充沛。
△気力が衰える。/气力衰弱。
△気力を回復する。/恢复精力。
△彼は気力に欠けている。/他缺乏魄力。
△そうするだけの気力がない。/没有能够那么做的魄力。
[15]漠然◎【ばくぜん】
【形动】
含混,含糊;笼统(まとまりがない);暧昧(態度や意図が暧昧);模糊。(ぼやけている。)冷漠。
△漠然たる印象。/模糊的印象。
△漠然たる恐怖感。/莫名其妙的恐怖感。
△漠然とした話。/含糊话。
△彼の説明は漠然としすぎる。/他的说明太笼统。
△そのころのことは漠然として覚えていない。/那时候的事情模模糊糊记不清。
△自分の将来について漠然とした不安を感じる。/对自己的将来隐隐感到不安。
[16]焦燥◎【しょうそう】
【名·自动·三类】
焦躁。(思うように事が運ばなくていらいらすること。あせること。)
△焦燥感。/焦躁感。
△焦燥に駆られる。/为焦躁所驱使。
[17]巣くう②【すくう】
【自动·一类】
(1)筑巢,搭窝。(巣を作ってすむ。)
(2)(坏人)栖居,盘踞。(よくない人間が集まって住む。)
△暴力団が巣くう。/暴徒们盘踞在一起。
[18]餓鬼①②【がき】
【名】
(1)〈佛教语〉饿鬼。因生前有恶行死后遭报应堕落饿鬼道的死者。相传常苦于饥渴,偶然得食,入口前即化为火焰。(〈仏〉悪業の報いとして餓鬼道に落ちた亡者。やせ細って、のどが細く飲食することができないなど、常に飢渇に苦しむという。)
(2)小鬼。淘气鬼。骂孩子的话。小孩儿。小家伙。小淘气。(子供をいやしんでいう称。)
△この餓鬼め。/你这个小鬼。
△うるさい餓鬼どもだ。/一伙讨厌的小鬼;讨厌的小家伙们。
△餓鬼大将。/淘气大王;孩子头。
[19]恥ずべき◎【はずべき】
【连】
可耻的。(恥じて当然な。当然恥ずかしいと思うべき。)
△恥ずべき行為。/可耻的行为。
[20]駆られる【かられる】
被驱使
〈下〉 心をおさえきれない. 嫉妬(しっと)に~
码字辛苦了!请问日语综合教程的资源有纯文档可供下载的吗?
谢谢,不好意思,麻烦您通知我那几篇译文,我马上将您的署名补上。我的邮箱是me艾特hankcs.com