いつごろ、だれが決めたのか分からないが、我が国に「日本三景[1] 」というのがある。日本の中で最も美しいと思われる三つの景勝地[2] を選んだもので、周知[3] のように宮城県[4] の「松島[5] 」、京都府の「天ノ橋立[6] 」、そして広島県[7] の「宮島[8] 」である。おそらく中国の「瀟湘八景[9] 」とか「西湖十景」などにならって[10] 、室町期[11] か江戸時代にだれが言うともなく人の口に上る[12] ようになったものに違いない。
それはともかく、この「三景」を思い浮かべて[13] みると、そこに共通した性格があることに気づく。第一に、いずれも海辺の景色であるということだ。日本列島にはまるで背骨[14] のように山脈[15] が南から北まで走り、日本を日本海と太平洋側の二つに分けている。ほとんどが山といってもいいほどなのに、「三景」の中に一つも山の風景が入っていない。これは誠に奇妙[16] なことではないか。
第二に、その海岸の景色が皆穏やかな内海[17] に望むこぢんまり[18] とした浜[19] で、すぐ目の前に小さな島、あるいは州[20] が見えるといった景観[21] であることだ。逆巻く[22] 波が打ち寄せる[23] 雄大[24] な海岸線はまったく見捨てられて[25] いる。「三景」に限らない。日本人が名所や歌枕[26] としてめでる[27] 風景は、例えば「須磨[28] .明石[29] 」にしろ、高知県[30] の「桂浜[31] 」にしろ、伊勢[32] の「二見け浦[33] 」にしろ、秋田県[34] の「象潟[35] 」にしろ、岩手県[36] の「浄土ヶ浜[37] 」にしろ、そのすべてが同工異曲[38] の眺め[39] である。海といっても男性的な荒海[40] ではなく、女性的な優しい入り江[41] に日本人は心引かれる[42] のである。
[1]日本三景【にほんさんけい】
日本三景R(“严岛”“松岛”“天桥立”).
[2]景勝地【けいしょうち】
风景秀丽的地方
[3]周知①【しゅうち】
【名】【他动·三类】
周知,众所周知『成』。(広く知れ渡っていること。また、広く知らせること)
△これは周知の事実だ/这是众所周知的事实。
[4]宮城県【みやぎけん】
【名】
宫城县。位于日本东北地区中部太平洋一侧的县,相当于旧陆前国的大部和磐城国的一部,县厅所在地为仙台市。(東北地方中部、太平洋側に位置する県。かつての陸前国の大部分と磐城国の一部を占める。県庁所在地、仙台市。)
[5]松島【まつしま】
【日本地名】
[6]橋立【はしたて】
【日本地名】
[7]広島県【ひろしまけん】
【日本地名】
[8]宮島【みやじま】
【日本地名】
[9]しょうしょう‐はっけい【瀟湘八景】セウシヤウ‥
瀟?湘二水付近の8カ所の佳景?平沙落雁?遠浦帰帆?山市晴嵐?江天暮雪?洞庭秋月?瀟湘夜雨?煙寺晩鐘?漁村夕照の総称?近江八景?金沢八景はこれにならったもの?
?しょう‐しょう【瀟湘】
[10]習う②【ならう】
【他五】
学习;练习。(教えられて自分の身につける。まなぶ。くりかえして修め行う。稽古する。)
△歌を習う。/练歌。
△先生に習う。/跟老师学; 受教于老师。
[11]むろまち‐じだい【室町時代】
足利氏が政権を握り京都室町に幕府を開いた時代?1392年(明徳3)南北朝の合一から?1573年(天正1)第15代将軍義昭が織田信長に追われるまでの約180年間を指す?その後期すなわち応仁の乱後を戦国時代とも称する?また?南北朝時代(1336~1392)を室町時代前期に含める説もある?
[12]口に上る【くちにのぼる】
【惯用语】被当作话题,谈到,提到。(噂になる、話題になる。)
クラスメートほとんど結婚しましたので、集まると大体子供と家庭のことが口にのぼる。/同学们几乎都结婚了,一聚到一起,谈论的大多都是孩子和家里的事儿。</br>
△クラスメートほとんど結婚しましたので、集まると大体子供と家庭のことが口にのぼる。/同学们几乎都结婚了,一聚到一起,谈论的大多都是孩子和家里的事儿。</br>
[13]思い浮かべる◎⑥【おもいうかべる】
【他动·二类】
想起,忆起。(心の中に描く。思い出す。想起する。 連想する。 )
△その映画をみてわたしは少年時代を思い浮かべた。/看到那部电影,使我想起了童年时代。
△容易にその場面を思い浮かべることができる。/我能很容易地回忆起那个情景来。
[14]背骨◎【せぼね】
【名】
脊梁骨,脊柱。(脊椎動物の躯幹の支柱をなす骨格。)
△背骨をまっすぐにする。/把脊梁骨挺直。
[15]山脈◎【さんみゃく】
【名】
山脉。群山绵延相连,呈带状延伸的山地。(山々が長く連なって帯状に延びる山地。)
△部屋のまどから山脈が見える。/这个房间能看到山脉。
[16]奇妙①【きみょう】
【名·形动】
(1)奇妙。因不同寻常而珍奇。奇怪,出奇,奇异,怪异。(普通と変わっていて珍しいさま。)
△奇妙なこと。/奇事。
△奇妙な風習。/奇怪的风俗习惯。
△奇妙なこともあるものだ。/说来也真奇怪。
△わたしが外出する時は奇妙に雨が降る。/真怪,我一出门就下雨。
△彼女は奇妙なかっこうをしている。/她打扮得怪模怪样。
(2)奇妙,灵妙。不能作出合理解释的,不可思议的。(合理的な説明のつかないさま。不思議なさま。)
△きみょうによく効く薬。/非常灵验的药。
[17]内海【ないかい】
【名】
内海(同うちうみ)
[18]こぢんまり④【こぢんまり】
【副】【自动·三类】
(小而)整洁,舒适,雅致。(小さいながら程よくまとまり、落ち着きのあるさま。)
△こぢんまりした家。/小而舒适的房子。
[19]浜②【はま】
【名】
(1)海滨,湖滨。(湖·海に沿った、平らな砂地。)
△浜の茶店。/海边的茶馆。
△浜の真砂。/海滨的细沙。
(2)吃下来的棋子。(囲んで取った、相手の石。)
(3)港口。横滨。(港。狭義では、横浜を指す。)
[20]す【州】
沙洲shāzhōu,沙滩shātān.
▲ ~に乗り上げる/(船)搁浅gēqiǎn.
▲ 三角~/三角洲.
[21]景観◎【けいかん】
【名】
景色,风景,景致。(風景外観。)
△雄大な景観。/雄伟景色。
△奇岩のそそり立つ景観にしばし見入る。/对奇岩耸立的奇景一时看得出神。
[22]逆巻く◎【さかまく】
【自动·一类】
翻卷(指波浪),汹涌,奔腾。(川や潮の流れに逆らうように波が巻き上がる。激しく波立つ。)
△逆巻く怒濤。/波涛汹涌。
[23]打ち寄せる④【うちよせる】
【自动·二类】
(1)涌来,冲来。(よせて来る。おし寄せる。)
△大波が岸に打ち寄せる。/大浪涌来。
△打ち寄せる敵の大軍。/敌人的大军涌来。
(2)骑着马过来。(馬に乗って近づく。)
△やしの実が浜辺に打ち寄せられる。/椰子被海浪冲到岸边。
[24]雄大◎【ゆうだい】
【形动】
雄伟,雄壮,宏伟,宏大。(規模が大きくて、思わず感動させられる様子。)
△雄大な計画。/宏伟的计划。
△規模の雄大さを誇る。/以规模宏伟著称。
△雄大な眺め。/壮观的风景。
[25]見捨てる◎【みすてる】
【他动·二类】
弃而不顾,抛弃,离弃,背离。眼睁睁的舍弃。
△両親に見捨てられた子。/被父母抛弃的小孩儿。
△困っている友人を見捨てる。/不顾困难的朋友。
△そう見捨てたものでもない。/并不是那么不可救药,还是有一定价值。
△かわいそうで見捨てておけなかった。/可怜巴巴的实在不能不管不问。
[26]歌枕【うたまくら】
(1)〔古歌によみ込まれた名所〕古来和歌中歌咏过的名胜.
(1)〔古歌によみ込まれた名所〕古来和歌中歌咏过的名胜.
(2)〔和歌作りの手引き書〕介绍和歌中常引用的名胜古迹和修辞用语的入门书.【名】
[27]愛でる②【めでる】
【他动·二类】
(1)疼爱。(かわいがる。いとおしむ。)
(2)欣赏。(ほめる。感心する。 )
△花を愛でる。/赏花。
△月をめでて、歌をよむ。/赏月咏诗。
(3)赞赏。(物の美しさ·素晴らしさをほめ味わう。感嘆する。)
△その勇気を愛でる。/欣赏这份勇气。
[28]すま【須磨】
①神戸市南西部の海岸の地?白砂青松の須磨浦に臨み?明石海峡を隔てて淡路島に対する?古来?風光明媚を以て明石と併称?月の名所?また古関跡?在原行平ゆきひら流謫地?源平古戦場?(歌枕)
②源氏物語の巻名?須磨に流謫した光源氏の生活を描く?
③箏曲の一つ?八橋検校作曲の組歌?
[29]明石【あかいし】
【日本地名】
[30]高知県【こうちけん】
【日本地名】
[31]かつら‐はま【桂浜】
高知市南部?浦戸湾湾口にある砂浜?景勝地で?月の名所?坂本竜馬の銅像がある?
桂浜
撮影:山梨勝弘
[32]伊勢①【いせ】
【名】
(1)伊势(今三重县的大半),日本地名。(旧国名。今の三重県の大半。勢州。)
(2)伊势神宫。(伊勢神宮。)
△伊勢参り。/参拜伊势神宫。
(3)伊势市,日本地名。(三重県の市。旧称、宇治山田市。伊勢神宮所在地として発達、神都と称する。伊勢志摩国立公園の入口。人口13万5千。)
[33]ふたみ‐の‐うら【二見ノ浦】
三重県伊勢市二見町の海岸の名勝?東端に夫婦岩めおといわがある?日の出は特に有名で?迎拝者が多い?ふたみがうら?
夫婦岩
[34]秋田県【あきたけん】
【日本地名】
[35]きさかた【象潟】
秋田県南西部の海岸?由利郡(現?にかほ市)鳥海山の北西麓にあった潟湖?東西20町余?南北30町余で?湖畔に蚶満寺かんまんじ(円仁の草創)があり?九十九島?八十八潟の景勝の地で松島と並称されたが?1804年(文化1)の地震で地盤が隆起して消失?(歌枕)
[36]岩手県④【いわてけん】
【日本地名】
岩手县。位于东北地方东北部,濒临太平洋的县。县厅所在地为盛冈市。(東北地方に属する日本の都道府県の1つ。県庁所在地は盛岡市。)
[37]じょうど‐が‐はま【浄土ヶ浜】ジヤウ‥
岩手県宮古市東部?臼木うすぎ半島東端の海岸?景勝地で海水浴場?
[38]同工異曲【どうこういきょく】
同工异曲
[39]眺め③【ながめ】
【名】
(1)眺望,了望。(見渡すこと。遠くのぞむこと。見晴らし。)
△建物にじゃまされて窓からの眺めが悪い。/因为房屋挡着,从这边的窗户不能远望。
(2)景色,风景,景致。(見渡したおもむき。景色。)
△なんというすばらしい眺めでしょう。/多么好的风景啊。
△このへやは海の眺めがよい。/这个房间可以眺望海上风光。
△ここからの眺めはすばらしい。/从这儿观景特别好。
[40]荒海◎③【あらうみ】
【名】
波涛汹涌的海。(波が立って荒れている海。)
[41]入り江【いりえ】
海湾;湖岔.【名】
湖岔;海湾
[42]心を引かれるこころをひかれる
ある人や物事に関心?好意を持ち?気持がそちらに向く??彼女の人柄に誰もが―?
桂浜
撮影:山梨勝弘
夫婦岩
撮影:山梨勝弘
浄土ヶ浜
撮影:山梨勝弘
なぜなのであろうか。おそらくは日本民族が体験した太古[1] の記憶が無意識のうちにこのような景色をこのうえなく美しく、懐かしい思いに誘うに違いない。日本人はその昔、南太平洋の島々、あるいは東南アジア、中国の江南[2] 地方、朝鮮半島などからさまざまなコースを経て日本列島にやってきた。原始的な小船を操ってのその航海[3] は、実に恐ろしい体験だったに違いない。どれほど多くの犠牲者[4] が出たことであろうか。大洋[5] を漂流[6] する彼らが、ただひたすら求め続けたのは島影[7] だった。そして波を避け島に上陸[8] することのできる入り江だったはずである。おそらく、そうした太古[9] の記憶が懐かしいイメージとなってあの「日本三景」結晶[10] しているのではなかろうか。
[1]太古①【たいこ】
【名】
太古,上古(指有史以前)。(非常に遠い昔。大昔。有史以前。)
△太古時代。/太古时代。
[2]江南【こうなん】
(1)[大きな川の南部]大江以南.
(1)[大きな川の南部]大江以南.
(2)[揚子江の南の地方]长江C以南地方.【日本地名】大江以南,长江以南地方
[3]航海①【こうかい】
【名·自サ】
航海,航行。(船舶で海洋を渡航すること。)
△遠洋航海。/远洋航行。
△処女航海。/初航;处女航。
△太平洋を航海する。/航行于太平洋。
[4]犠牲者②【ぎせいしゃ】
【名】
牺牲者。(事件や事故により、生命を失うなどの重大な損害を受けた人。)
△その勝利は多大の犠牲者をだした。/那次胜利是由许多牺牲者换来的。
△鉄道事故で多くの犠牲者がでた。/因铁路事故造成了许多伤亡。
[5]大洋◎【たいよう】
【名】
大洋,大海。(大きい海。広い海。大海。太平洋·大西洋·インド洋を三大洋、北極海·南極海を加えて五大洋という。)
[6]漂流◎【ひょうりゅう】
【名·自サ】
(1)漂流。船只等在海上随波漂流。(船などが海上を漂い流されること。)
△嵐の海を漂流する。/在暴风骤雨的海面上漂流。
(2)漂泊。无目的的流浪。(あてもなくさすらうこと。)
△漂流老人。/流浪老人。
[7]島影◎③【しまかげ】
【名】
岛的形象。(島の姿。海上に見える島の形。)
[8]上陸◎【じょうりく】
【名·自动·三类】
上陆,登陆。登岸'。(船や海から陸に上がること。)
△敵前に上陸する。/在敌前登陆。
△台風が四国に上陸する。/台风登上四国岛。
△上陸を許された水夫。/被允许上岸的海员。
△無事に上陸する。/平安登陆。
△上陸日。/(水手)准许上岸日。
△上陸部隊。/登陆部队。
△上陸用舟艇。/登陆艇。
[9]太古①【たいこ】
【名】
太古,上古(指有史以前)。(非常に遠い昔。大昔。有史以前。)
△太古時代。/太古时代。
[10]結晶◎【けっしょう】
【名·自动·三类】
(1)结晶。〔雪などの〕
△雪は結晶をなしている。/雪形成结晶。
△結晶体。/结晶体。
△結晶軸。/晶轴。
△結晶質。/晶质。
△結晶格子。/结晶晶格。
△結晶片岩。/结晶片岩。
(2)(事物的)成果,结晶。〔結果となってあらわれるもの。〕
△汗の結晶。/辛勤劳动的结晶〔结果〕。
△この作品は彼の多年の努力の結晶である。/这个作品是他多年来努力的结晶。