例えば、昆虫採集には捕虫網が必需品である。今ならば父や母がデパートの夏休みコーナー[1] なんかでワンセット[2] そろえてくれるだろう。ボクはそれを自分のアイデアと工夫ですベてやった。いや別にたいしたことはない。捕虫網の竹は裏山[3] にいくらでも自生[4] していた。網は使い古しの蚊帳[5] だった。蚊帳の手ごろの部分を切って袋状に縫う[6] 。縫い方は、毎晩繕い物[7] をするおふくろの針仕事[8] を見ていて覚えた程度である。あとは納屋[9] からハリガネ[10] を見つけてきて輪をつくればでき上がり。
採集した蝶を標本にするには虫ピンが必要である。初めのうちはおふくろの裁縫[11] 箱の木綿[12] 針を失敬[13] した。しかしそれには限りがあった。虫ピン[14] をほしいと思ったが町は遠い。仮に町へ行ったにしても、当時はたして[15] 売ってたかどうか。窮すれば通ず[16] とはよく言ったものである。二階に古びた[17] 蓄音機[18] が一台あった。七十八回転で、ハリ[19] を使って聞くアレである。その使用済み[20] のハリがボクの虫ピンとなった。
周囲が山だから採集場に不自由はなかった。だが蝶はどこへ行ってもいるというわけではない。一般的に言えば、花が咲いていればそこで待てばよいわけだが、やってみるとそう単純なものではない。カブトムシ[21] やクワガタのようにナラやクヌギ[22] の樹液を好む蝶もいる。春型と夏型で大きさや紋様を変えるものもいるし、オス[23] とメス[24] がまるで別種のような蝶もいる。そうしたことは夢中でやり継ぐなかからしだいにわかってきた。どうやらボクは行動先行型のガキだったように思う。理論等は二の次[25] で、ムチヤクチヤに行動するなかから、何かしらの法則を見つけ出すのが常だった。
新種[26] の蝶を捕獲[27] と歓喜[28] したのは、メスグロヒョウモン[29] のメスを捕らえた時だった。メスグロヒヨウモンのメスは、オスとは全く違う紋様であるばかりか、ちょっと見にはヒョウモン類の蝶とさえ思えなかったからである。当然図鑑[30] を見て落胆[31] する結果となったわけだが、いつの日か新種の蝶を発見し、それに「タカオチョウ」なる名前をつけたいなどと、途方[32] もないことを考えるようになっていた。
[1]コーナー①【こーなー】
【名】【英】corner
(1)隅,角。(かど。隅。)
△部屋のコーナーを利用する。/利用屋角。
△コーナーを曲がる。/绕拐角处。
(2)角球。(野球で、アウト·コーナーおよびイン·コーナーの総称。)
△コーナー·キック。/踢角球。
△コーナー·ワーク。/投角球。
△コーナーに球を投げ込む。/把球投向场角。
(3)专柜。(デパートなどで特定の商品を扱う売り場の一区画。)
△相談コーナー。/服务台。
(4)相角,贴像角。(写真の四隅をアルバムに貼るのに用いる飾り紙。)
[2]ワンセット③【わんせっと】
【名】【英】one set
一组。一套。一副。((組み合わせの)ひとそろい。)
△ワンセット主義。/一条龙主义。
[3]裏山◎【うらやま】
【名】
(1)后边的山,后山。(家の裏手の山。)
△裏山に逃げた。/逃到后山去了。
(2)山阴。(山の,日当たりの悪い側。)
△裏山に咲く花はどんなに生命力強いだろう。/生长在背阴处的花生命力该有多旺盛啊。
(3)日本地名。(日本の地名。愛知県と福島県にある。)
[4]自生◎【じせい】
【名·自サ変】
自生,野生。植物自身繁殖生长。(植物がひとりで繁殖すること。)
△椿の自生地。/山茶花的自生地。
[5]蚊帳◎【かや】
【名】
蚊帐。(寝室につりさげて蚊を防ぐ、目の細かい網のおおい。)
△蚊帳の外。/局外人。
[6]縫う①【ぬう】
【他动·一类】
(1)缝,缝纫。 缝合。(糸を通した針で布や皮などを刺し綴る。衣服を作る。)
△ミシンで縫う。/用缝纫机缝。
△着物を縫う。/缝衣服。
△きずは3針ほど縫った。/伤口缝了三针。
(2)刺绣,绣花。(縫取りをする。刺繍をする。)
△もようを縫う。/绣花。
(3)穿过。(物と物との間を左右に曲折しながら通る。通り抜ける。)
△人ごみを縫って行く。/在人群中穿行。
△川が山の中を縫って流れている。/河在山中蜿蜒穿流。
△多くの車の間を縫って走る。/(驾驶汽车)在许多汽车中穿行。
[7]繕い物【つくろいもの】
[繕う]缝补衣服;[縫うもの]该缝补的衣服.
夜おそくまで繕い物をする/缝补衣服到深夜.
[8]針仕事③【はりしごと】
【名】
针线活。(裁縫。縫い物。)
△針仕事をする。/做针线活。
△針仕事がうまい。/针线活做得好。
△針仕事で暮らしをたてる。/靠做针线活过日子(维持生活)。
[9]納屋①【なや】
【名】
(1)(农家的)仓库。储藏室。杂物间。(別棟に設けた物置用の小屋。)
△納屋からくわを出す。/从仓库拿出锄头。寄居在仓库
(2)(日本中世时主要建造于海边的)商业用仓库。(中世後に、海産物およびその加工品を収蔵するために港町に設けられた倉庫。)
△納屋で寝泊りする。/寄居在仓库。
[10]針金◎【はりがね】
【名】
铁丝,铜丝,钢丝。(金属を細い線条にしたもの。)
△針金切り。/钢丝(轧断)钳。
△針金差し。/线径规,线规。
△針金を切る。/剪断铁丝。
△針金でしばる。/用铁丝捆上。
[11]裁縫◎【さいほう】
【名·自动·三类】
缝纫;(做)针线活儿。(布を一定の形に裁ち、衣服などに縫い上げること。)
△裁縫が上手だ。/针线活儿做得好。
△裁縫を習う。/学缝纫。
△裁縫学校。/缝纫学校。
△裁縫師。/缝纫师;裁缝;成衣匠。
△裁縫道具入れ。/缝纫工具箱;针线盒。
[12]木綿◎【もめん】
【名】
(1)棉花。从棉桃种子上轧取的纤维。(綿(わた)の種子からとった繊維。衣料用として広く用いられる。綿花。)
(2)棉织品,棉纱、棉布,棉线。(木綿糸。また、それで織った布。)
△このシャツは木綿ですか,絹ですか。/这件衬衣是布的还是绸的?
[13]失敬③【しっけい】
【名】【形動】【自他サ】【感】
(1)失礼,对不起。(わびる。)
△失敬、待たせてしまって。/对不起,让你久等了。
(2)没有礼貌,侮蔑。(無礼。)
△失敬な男。/失礼的人。
(3)偷,悄悄拿走。(盗む。)
△ホテルのスプーンを失敬する。/将旅馆的汤勺偷走。
(4)告别,再见。(別れる。)
△ここで失敬しよう。/在此告别。
[14]ピン【ピン】
(1)[虫ピン]大头针;[安全ピン]别针,扣针;[ヘアピン]发夹,发卡.
(1)[虫ピン]大头针;[安全ピン]别针,扣针;[ヘアピン]发夹,发卡.
△ピンで留める/用大头针别住.
△ピン·カール/用发卡卷(的)发.
(2)〈機〉栓,销,枢,支杆.
△ピン·キー/销键.
(3)〈ボーリング〉木柱,球柱.
(4)〈ゴルフ〉小旗竿.
[15]果たして②【はたして】
【副】
(1)果然。(思っていたように。)
△果たして思ったとおりだった。/果然不出所料。
△果たして事実だった。/果然是事实。
(2)果真。真的。到底。与表示疑问、假定的词一起使用。(まことに。)
△果たしてそのとおりか。どうもあやしい。/果真是那样吗?大有可疑。
△これは果たして本物だろうか。/这到底是真东西吗?
△果たしてまた会えるだろうか。/到底还能见上一面吗?
[16]通ずる◎③【つうずる】
【自他动·三类】
(1)通,通往。(道筋が他とつながる。また、道筋をつける。)
△電話が通ずる。/通电话。
(2)通晓,领会,了解。(意志やものの意味などが相手に伝わる。また、伝える。)
△冗談が通じない。/不懂得玩笑;不懂得幽默。
(3)私通;勾通,通敌。(相手とつながりをもつ。また、つながりをつける。)
△敵に通ずる。/通敌。
(4)(大小便)畅通。(大小便が出る。)
△小便が通ずる。/小便畅通。
[17]古びる③【ふるびる】
【自动·二类】
变旧,陈旧。(古くなる。古くさくなる。)
△古びた服。/旧衣服。
[18]蓄音機③【ちくおんき】
【名】
留声机。(円盤レコードの溝に針を接触させ、録音した音を再生する装置。回転台·ピックアップ·サウンドボックスからなる。)
[19]針①【はり】
【名】
(1)针。(縫い、刺し、引っ掛け、液を注ぎなどするのに用いる、細長くとがった道具の総称。)
△ミシン針。/缝纫机针。
△ししゅう針。/绣花针。
△針に糸を通す。/穿针。
△針さしに針が何本かさしてある。/针扎儿上插着几根针。
△針のめど。/针鼻儿;针孔。
△ホッチキスの針がなくなる。/钉书机的钉没有了。
△針の目がたいへん細かい。/针脚很密。
△針が落ちても聞こえるほど静かだった。/寂静得连根针掉在地上都听得见。
△針で刺すように足が痛んだ。/脚疼得跟针扎的一样。
(2)针状物。(細く先のとがった針に似た物。)
△注射針。/注射针头。
△磁石の針。/罗盘针。
△時計の針。/表针。
△レコードの針。/唱针。
△とめ針。/别针;大头针。
(3)裁缝。(裁縫のこと。)
△針を運ぶ。/运针;缝纫。
△傷口を5針縫う。/伤口缝五针。
(4)伤害对方感情。(害意を持つ人心。)
△言葉に針がある。/话中带刺。
(5)針の山。/针山,比喻境况苦。
(6)針ほどの穴から棒ほどの風が来る。/门窗缝里的风叫人冷的够呛。
(7)針ほどのことを棒ほどに言う。/夸大其词。
(8)針を蔵に積みてもたまらぬ。/零钱积得再多也成不了大富翁。
(9)針を含む。/含沙射影。
(10)針を持って地を刺す。/管窥蠡测。
[20]使用済み【しようずみ】
使用完毕,用完。
[21]かぶとむし③【かぶとむし】
【名】
独角仙。(コガネムシ科の昆虫。体長4~5センチ。体は黒褐色でつやがあり、雄は頭に角をもつ。主に夜活動し、クヌギ·サイカチなどの樹液を吸う。)
△かぶとむし類。/鞘翅目。
[22]くぬぎ◎【くぬぎ】
【名】
栎,柞树。(ブナ科の落葉高木。山野に多く、樹皮は暗灰色で裂け目が多い。葉は長楕円形で縁にぎざぎざがある。5月ごろ、雄花と雌花とが咲く。2年目の秋に球状のどんぐりがなり、食べられる。材は炭やシイタケの原木に、樹皮·実は染料に使われる。つるばみ。くのぎ。くにぎ。)
[23]オス②【おす】
【名】
生物中雄性。也指比如说像螺栓螺母,以及管阀等五金件的螺栓侧,螺母侧被称为メス。(動物の性別で、精巣をもち、精子をつくるほう。また、植物で雄花をつけるもの。)
△オスの寿命が短い。/雄性的寿命短。
[24]雌②【めす】
【名】
雌,母。(動物の性別で、卵巣を持ち、卵や子を産むほう。)
△ 雌馬。/牝马。
△ それは雌か雄か。/那是母的还是公的·
[25]二の次◎【にのつぎ】
【名】
第二,其次,次要。(2番目。そのつぎ。あとまわし。)
△話は二の次にして早く片付けなさい。/说话是次要的快收拾。
[26]新種◎①【しんしゅ】
【名】
新品种。(今までにない、新しい種類。新たに発見された生物の種。国際命名規約に定める必要条件を満たす方式によって記載·公表され、新種であると判定が下されれば学名が有効となる。また、新たに作出された品種。)
△新種保険。/新种类保险。
[27]捕獲◎【ほかく】
【名·他サ】
(1)捕获。捉住,生擒。(とらえること。いけどること。)
△人食い鮫を捕獲する。/捕获吃人的沙鱼。
△捕獲高。/捕获量。
(2)捕获。国际法上战时交战国的军舰按一定的手续俘获敌对国或中立国的船舶。(国際法上、戦時に交戦国の軍艦が、相手国または中立国の船舶を一定の手続きに従いつかまえること。海上捕獲。)
[28]歓喜①【かんき】
【名·自サ変】
欢喜,欢呼。非常喜悦快乐。亦指大喜。(非常に喜ぶこと。また、大きな喜び。)
△歓喜の涙。/欢喜的眼泪。
[29]メスグロヒョウモン(雌黒豹紋、 Damora saganaまたはArgynnis sagana) は、チョウ目(鱗翅目)タテハチョウ科ドクチョウ亜科ヒョウモンチョウ族に分類されるチョウの一種。
[30]図鑑◎【ずかん】
【名】
图鉴。(図や写真を中心にして事物を系統的に解説した書物。)
△鳥類図鑑。/鸟类图鉴。
△植物図鑑。/植物图鉴。
[31]落胆◎【らくたん】
【名·自动·三类】
灰心,气馁。(失望してがっかりすること。)
△落胆の色が濃い。/沮丧的情绪毕露。
△ひとりっ子に死なれて彼は落胆している。/他为独生子死去而沮丧。
[32]途方◎【とほう】
【名】
(1)手法,手段。(方向、手段。)
△両親に死なれて、彼女は途方にくれてしまった。/失掉了双亲,她走投无路了。
(2)条理,顺序。(筋道、条理。)
△途方もない計画。/惊人的计划。
△途方もないずうずうしさ。/从未见过的厚脸皮。
△途方もなく安い。/便宜得出奇。
△途方もない時間にやってきた。/不合常情的时候来了。
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