話を前に戻そう。
背丈を越える葦の茂みをかきわけて、ボクは一歩一歩甘池の中へ入って行った。踏みしめる[1] 足元は永い歳月の中で枯れて倒れた葦が積み重なって[2] できたものだろう。一歩進むたびに、まるでトランポリン[3] の上を歩いているような弾力[4] を感じた。もちろんこれは大人になって知ったことだが、こうした湿原[5] はもともと水をたたえた[6] 池や沼[7] だったところに、葦やスゲ[8] などの湿性[9] 植物がはびこり、その根が泥土[10] を抱き込んで[11] しだいに水面を覆い尽くすかたちででき上がった、亜寒帯[12] 特有の現象である。しかし当時のボクにはそんな理屈など知るわけもなく、ただ何となく地底[13] が水であり、その上に枯れ葦の薄皮[14] が浮いているような感じがして急におそろしくなった。
「引き返そう[15] !!」と思った時だった。ポッカリ[16] と一坪ぐらい葦が生えていない場所が目前に現れた。直径1.5メートルぐらいの小さな水たまり[17] だった。水たまりのまわりには紫色のリンドウ[18] の花が咲き乱れて[19] いる。リンドウの花にホッと[20] ひと息もつかの間、次の瞬間にはボクは真っ青[21] になっていた。水たまりと思ってのぞいたそれは、あたかも地獄へでも通じているかのように深く暗かった。
「底無し沼だ!!」ガタガタ[22] と体が震えた。震えながら踵[23] を返して2、3歩、もと来た方向へ歩き始めた。と、ボクの目の奥に、リンドウの花の上を飛び交う[24] 羽虫[25] の残像[26] が浮かんで振り返った[27] 。たしかに小さい赤い何かが花の上を飛び、フッと[28] とまったりしている。
「ハチ[29] かな?!アブ[30] かな?!」ボクの好奇心は捕虫網をかまえさせて[31] いた。振り払われた[32] 網はカクジツにそれを捕らえた。あとは一目散に[33] 甘池を逃れ、ようやく国有林にたどりつくや中味を見て仰天[34] した。それはなんと!!両翼[35] を広げても3センチメートルにも満たない極小[36] のトンボだったのである。
[1]踏み締める④【ふみしめる】
【他动·二类】
(1)用力踩。(力を入れてしっかり踏む。)
△一歩一歩踏みしめて歩く。/一步步踏实的走下去。
(2)踩结实。(踏んでかためる。踏みかためる。)
△雪を踏みしめて道を作る。/踩踏积雪,造出一条小路。
[2]積み重なる⑤【つみかさなる】
【自动·一类】
(1)一个压一个的堆积起来,垒积起来。(積みあげて高くなる。)
△積み重なって高くなる。/垒积得高起来。
△落葉が積み重なる。/落叶堆积。
(2)反复,重复。(同じことがくり返される。)
△日とともに積み重なる。/日积月累。
[3]トランポリン②④③【とらんぽりん】
【名】【英】Trampoline
〈体〉蹦床。(円形や方形などの枠にスプリング付きの弾力性の強いマットを張った運動用の跳躍器具。また、それを使った体操の種目。)
△子供用トランポリン。/儿童蹦床。
[4]弾力◎①【だんりょく】
【名】
(1)弹力,弹性。(外力を加えられ変形した物体が、外力に抗して元の形に戻ろうとする力。はねかえす力。はずむ力。)
△この古いゴムひもにはもう弾力がない。/这根旧松紧带已经没有弹力了。
△弾力率。/弹性率〔系数〕。
(2)弹性,灵活。指通融起作用。(融通のきくこと。受容力。)
△弾力的に運用する。/灵活运用。
[5]湿原【しつげん】
湿原野.【名】
潮湿的草原
[6]湛える【たたえる】
【他动·二类】
(1)装满,充满。(液体などをいっぱいに満たす。)
△目に涙を湛える。/眼中溢出了眼泪。
(2)满面。(ある表情を浮かべる。感情を顔に表す)
△満面に笑みを湛える。/笑容满面。
△愁いを湛える。/愁容满面。
[7]沼②【ぬま】
【名】
池塘,沼泽,池沼。(水が自然にたまった、泥の深い所。アシなどが生えていることが多い。)
△底なし沼にはまりこむ。/陷入无底深渊。
[8]菅◎【すげ】
【名】
苔草,羊胡子苔草,羊胡子草,蓑衣草。莎草科苔草属草本植物的总称,分布于热带至寒带,多生于水边或湿地,叶可制斗笠、蓑衣、绳等。(カヤツリグサ科スゲ属の草木の総称。熱帯から寒帯に分布。水辺や湿地に多い。葉で笠·蓑·縄などを作る。かさスゲ·アゼスゲなど。)
[9]湿性◎【しっせい】
【名】
湿性。(湿りけのある性質。水分の多い性質。また、湿りやすかったり、水分を必要としたりする性質。)
[10]泥土①【でいど】
【名】
泥土,稀泥;不值钱的东西。(きわめて微細な土状の沈殿物。どろ。また、水にとけた土。また、ねうちのないもの。つまらないもの。)
△豪雨で畑地が泥土と化す。/暴雨让耕地变成泥巴地。
[11]抱き込む③【だきこむ】
【他动·一类】
搂住,拉拢,笼络,牵连,连累。(腕の中に抱いて入れる。仲間に引き入れる。巻き添えにする。)
△わいろをつかって人を抱きこむ。/行贿拉拢人。
[12]亜寒帯◎【あかんたい】
【名】
亚寒带。(気候帯の一つ。温帯と寒帯の中間の地帯。およそ緯度50度から70度の範囲。)
△亜寒帯植物。/亚寒带植物。
[13]地底【ちてい】
【名】
地底;地下深处
[14]薄皮◎【うすかわ】
【名】
(1)薄皮,薄膜。(薄い膜のような皮。)
(2)薄皮大馅的豆沙包。(薄皮饅頭。黒砂糖を入れて作った薄い皮で、こしあんを包んだ饅頭。)
(3)白嫩的皮肤。(女性などの、透き通るように色白の肌。)
[15]引き返す③【ひきかえす】
【自动·一类】
(1)返回,折回。(進んできた道をもとへ戻る。ひっかえす。)
△途中から引き返す。/半路上折回,半路返回。
△いま来た道を引き返した。/顺着刚才来的路返回去了。
△進むことも引き返すこともできない。/进退两难。
(2)相反。(反対にする。うってかわって。)
△昨年に引き返して今年は暖かい。/和去年相反,今年暖和。
[16]ぽっかり③【ぽっかり】
【副】
(1)飘浮。(軽く浮かんでいる。)
△雲が空にぽっかりと浮かんでいる。/天空飘着一朵白云。
(2)突然裂开〔开口〕。(大きな割れ目や穴があいているさま。)
△庭にぽっかりと穴があく。/院子里突然裂开个大口子。
[17]水たまり【みずたまり】
水洼,水塘
[18]リンドウ【りんどう】
【名】
龙胆,龙胆科植物及中药材龙胆的统称。 多年生草本,高30-1500px。花期是秋季。只在晴天时开花。(リンドウ科リンドウ属の多年生植物である。本州から四国·九州の湿った野山に自生する。花期は秋。花は晴天の時だけ開き、釣り鐘型のきれいな紫色で、茎の先に上向きにいくつも咲かせる。)
△リンドウの花。/龙胆花。
[19]咲き乱れる⑤【さきみだれる】
【自动·二类】
盛开,开得十分烂漫。(花が盛んに咲く。色々な花が一面に咲く。)
△野に咲き乱れるれんげ草。/野外盛开的荷花。
[20]ほっと◎①【ほっと】
【副·サ変自】
(1)叹气。(ため息を付くさま。)
△ほっとため息をつく/叹一口气。
(2)放心。(安心して緊張のとけるさま。)
△ほっと胸をなでおろした/放了心,松了一口气。
△試験が終わってほっとする/考试结束,松了一口气。
△それを聞いてほっと安心した/听到这个消息,放了心。
[21]真っ青③【まっさお】
【名·形動】
(1)蔚蓝,深蓝。(まったく青いこと。)
△真っ青な海。/深蓝色的海洋;蓝蓝的海洋。
△真っ青な空。/蔚蓝的天空。
(2)苍白,刷白;铁青。(血の気のないさま。まさお。青光りする)
△真っ青な顔をして,どうしたのですか。/您脸色苍白,怎么啦·
△恐ろしさに真っ青になる。/吓得脸色刷白。
△真っ青になって怒る。/气得脸色刷白;气得脸色铁青。
[22]がたがた◎【がたがた】
【副】
(1)〔音〕喀哒喀哒;咕咚咕咚。(硬いものが触れ合って出る騒がしい音を表す語。)
△風で戸ががたがたいう/由于刮风门咕咚咕咚地响。
△へやのなかでなにかがたがたする/屋子里有什么东西喀哒喀哒响。
(2)摇晃,摇摇晃晃;东倒西歪『成』;动荡不稳,不紧。(倒れそうな状態。)
△道が悪くて車ががたがたする/道路不好,汽车摇摇晃晃的。
△はしごだんががたがたする/楼梯晃晃荡荡的。
△あの会社はがたがただ/那家公司千疮百孔〔动荡不定〕。
(3)哆哆嗦嗦地;颤动,发抖。(小刻みに震えたり、ゆれうごいたりするさま。)
△がたがたふるえる/哆哆嗦嗦地颤抖。
△寒さで歯ががたがたする/冷得上牙直打下牙。
(4)唠叨。(不平がましく言い立てるさま。)
△がたがた文句を言うな/别婆婆妈妈地多说了!
[23]踵◎【かかと】
【名】
(1)脚后跟。(足の裏の後ろの部分。)
△踵をあげてつま立ちする。/踮脚站立。
(2)鞋后跟。〔はきものの底の後ろの部分。〕
△踵の高い靴。/高跟鞋。
[24]飛び交う③【とびかう】
【自动·一类】
飞来飞去,交错乱飞。(ある限られた場所を入り乱れて飛ぶ。飛び違う。)
△ほたるが飛び交う。/萤火虫飞来飞去。
△うわさが飛び交う。/风声交错乱飞。
△会場に罵声が飛び交う。/会场上漫骂声四起。
[25]羽虫【はむし】
羽虱.【名】
白蚁(同はじらみ)
[26]残像◎【ざんぞう】
【名】
余像,残像。对光刺激凝视片刻后,闭上眼睛或把视线移往别处时产生的视觉体验。出现种种形状,颜色,亮度的像。(光の刺激を見つめたあと、目を閉じたり他の方面に視線を移したりしたときに生じる視覚体験。種々の形·色·明るさの像として現れる。)
△ あれは遠い街の残像,巡り巡る甘い追憶。/那是遥远街区的残像,循环上演的甜美追忆。
[27]振り返る③【ふりかえる】
【他动·一类】
(1)回头看,回过头去(看),向后(看)。(後ろを見る。)
△なごり惜しそうに振り返る。/恋恋不舍地回头看。
(2)回顾。回过头来看,思考过去的事情。(過去の事を考える。また、回顧する。)
△50年のむかしを振り返る。/回顾五十年以前的事。
△わが身を振り返る。/回顾自己走过的历程。
[28]ふっと①【ふっと】
【副】
(1)忽然。(急に消えたりいなくなったりするさま。理由もなく急にそうなるさま。)
△ふっと立ち止まる。/突然站住。
△ふっと思いつく。/忽然想起。
(2)噗地。(口をすぼめて息を一回軽く吹きかけるさま。)
△ろうそくをふっと吹き消す。/噗地一口气把蜡烛吹灭。
[29]蜂◎【はち】
【名】
蜂。(昆虫の一種。)
△蜂に刺された。/被蜂子蜇了。
△蜂を1箱飼う。/养一箱蜂。
△蜂がぶんぶんいう。/蜂子嗡嗡地叫。
[30]あぶ
〈動〉虻méng,牛虻niúméng.
【慣用句】
~はち取らず 逐zhú两者一无所得;务广而荒;鸡飞蛋打(成).
▲ あまり欲張ると~はち取らずになるよ/太贪tān心了反而会一无所得.
[31]構える③【かまえる】
【自他动·二类】
(1)建造。成家。开店。(築き上げる。)
△別荘を構える。/修建别墅。
△新居を構える。/建筑新住宅。
△陣地を構える。/修筑阵地。
(2)对对方摆出某种态度。(身構える。)
△のんきに構える。/态度沉着;不慌不忙。
△おうように構える。/态度大方;宽宏大度。
△尊大に構える。/摆架子;摆出骄傲'自大的架子。
(3)手中持物做某种姿势。(手であるものを持つこと。)
△銃を構える。/托枪;作好放枪的姿势。
(4)假托。捏造。(こじつける)
△言を構える。/托词;制造借口。
△口実を構える。/制造口实。
(5)准备好。(事に備えて、用意する。)
△かまえた言い方。/准备好的说法。
△兵を構える。/屯兵。
[32]振り払う④【ふりはらう】
【他动·一类】
抖落;掸去。(からだを振ったりなど、手段を尽くして離そうとする。)
△ちりを振り払う。/抖掉灰尘。
△相手の手を振り払う。/甩开对方的胳膊。
[33]一目散に③【いちもくさんに】
【副】
一溜烟地,飞快地。(わき目もふらずに一生懸命に走る形容。)
△一目散に逃げ出す。/一溜烟地逃出去。
[34]仰天◎【ぎょうてん】
【名·自サ】
非常吃惊,大吃一惊『成』。(〔驚いて天を仰ぐの意から〕非常に驚くこと。)
△びっくり仰天する。/大吃一惊。
[35]両翼◎【りょうよく】
【名】
(1)翅膀,两翼。(鳥や飛行機などの、左右のつばさ。)
(2)两边,两翼。(左右に張り出して位置するもの。軍隊の布陣の左右の部分など。)
[36]極小◎【きょくしょう】
【名】【形动】
(1)极小,最小。(きわめて小さいこと。また、そのさま。)
△極小の生物。/极小的生物。
(2)〈数〉极小。(関数f(x)がx=aにおいて減少から増加の状態に変わるとき、関数f(x)はx=aで極小であるという。)
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