顔の皮膚がこわばり[1] はじめた。ほんの表面だけだけれども、身体の材質[2] が岩の材質に近づいた。坐りこんで、膝をかかえた[3] まま、雪片[4] が次々に海に吸い込まれて行くのを見ていた。
見えないガラス[5] の糸が空の上から海の底まで何億本も伸びていて、雪は一片[6] ずつその糸を伝って降りて行く。身体全体の骨と関節[7] が硬化[8] して、筋肉[9] が冷えきり、内臓[10] だけが僅か[11] な温かさを保っているようだ。身体を動かしたいと思ったが、我慢した。岩になるためには動いてはいけない。
音もなく限りなく降ってくる雪を見ているうちに、雪が降ってくるのではないことに気付いた。その知覚[12] は一瞬にしてぼくの意識を捉えた。目の前で何かが輝いたように、ぼくははっとした。
雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。静かに、滑らか[13] に、着実[14] に、世界は上昇[15] を続けていた。ぼくはその世界の真中に置かれた岩に坐っていた。岩が昇り、海の全部が、厖大[16] な量の水のすべてが、波一つ立てずに昇り、それを見るぼくが昇っている。雪はその限りない上昇の指標[17] でしかなかった。
どれだけの距離を昇ればどんなところに行き着くのか、雪が空気中にあふれているかぎり昇り続けられるのか、軽い雪の一片ずつに世界を静かに引き上げる機能があるのか。半ば岩になったぼくにはわからなかった。ただ、ゆっくりと、ひたひたと、世界は昇っていった。海は少しでも余計に昇れればそれだけ多くの雪片を溶かし込める[18] と信じて、上へ上へ背伸び[19] をしていた。ぼくはじっと動かず、ずいぶん長い間それを見ていた。
(『スティル?ライフ』中央公論社より)
[1]こわばり【コワバリ】
僵硬。变硬。(こわばること。固くなること。)
[2]材質◎【ざいしつ】
【名】
(1)木材的性质,木质。(材木の性質。)
△この材質はいいです。/这种木材性质很好。
(2)材料的性质.木材的性质,木质,材料的性质。(材料の性質。)
[3]抱える◎【かかえる】
【他動】
(1)(双手)抱;夹。(物を腕で囲むようにして胸に抱いたり脇の下に挾んだり持つ。)
△こわきに抱える/夹在腋下。
△大きな荷物を胸に抱える/怀里抱个大行李。
△心配ごとがあると見えて,頭を抱えて考えこんでいる/(他)抱着脑袋沉思象是有发愁的事。
△あの大木は3人で抱えるほどあるだろう/那棵大树足有三搂粗。
△腹を抱えて大笑いする/捧腹大笑。
(2)承担,担负;身边有。(自分の負担となるような人を家族の一員としてもつ。)
△3人の子どもを抱えている/身边有三个孩子。
△家に病人を抱えている/家里有要服侍的病人。
△住民の反対という問題を抱える/存在着居民反对这一问题(的压力)。
△たくさんの仕事を抱えてどこへも出られない/担负许多工作哪儿也去不了。
(3)雇佣。(人を雇って家族や会社の一員とする。)
△秘書を抱えている/雇了一个秘书。
(4)背负。(処理、解決しなければならないことを持つ。)
△借金を抱える/背债。
[4]雪片【せっぺん】
雪片
[5]ガラス◎【がらす】
【名】【荷】glas
玻璃;光玻璃。(古代から知られてきたケイ酸塩を主成分とする硬く透明な物質。)
△網ガラス/铁纱玻璃。
△くもりガラス/毛玻璃。
△耐熱ガラス/耐热玻璃。
△ガラス越しに見る/隔玻璃看。
△ガラスばりの政治/光明磊落的政治。
△ガラス障子/玻璃格窗。
△ガラス糸/玻璃丝。
△ガラス切り/玻璃刀;金钢钻刀。
△ガラス戸/玻璃门。
△ガラス·コップ/玻璃杯。
△ガラスびん/玻璃瓶。
△ガラスまど/玻璃窗。
△ガラス管/玻璃管。
△ガラス繊維/玻璃纤维。
△ガラス細工/玻璃工艺品。
[6]一片◎【いっぺん】
【名】
(1)一片,一张。(ひとひら。ひときれ。)
△一片の花びら。/一片花瓣。
(2)一点儿,微量。(少しばかり。わずか。)
△一片の良心もない。/一点良心都没有。
[7]関節◎【かんせつ】
【名】
关节。(骨と骨とを可動的に結合させる部分。両骨の相対する面には軟骨の薄層があり,関節の周囲は骨膜の延長である結合組織性の丈夫な膜で包まれ,内部は滑液で満たされている。)
△関節をくじく。/扭伤关节。
△関節がはずれる。/关节脱节了。
△関節炎。/关节炎。
△関節リューマチ。/风湿性关节炎。
△関節軟骨。/关节软骨。
[8]硬化①◎【こうか】
【名·自动·三类】
(1)硬化。(物が硬くなること。)
△動脈が硬化する。/动脉硬化。
(2)强硬起来。(態度·意見などが強硬な状態になること。)
△態度が硬化する。/态度硬起来。
(3)(行市)见挺。(市場の相場が買い人気になって,上がる気配に向かうこと。)
[9]筋肉①【きんにく】
【名】
肌肉,筋肉。(収縮·弛緩によって動物の体を運動させる器官)
△筋肉隆々たる体/肌肉发达的体格。
△筋肉がけいれんする/筋肉痉挛;抽筋儿。
△彼は筋肉質だ/他浑身都是肌肉。
△筋肉リューマチ/肌肉风湿症。
△筋肉労働/体力劳动。
△筋肉注射/肌内注射。
[10]内臓◎【ないぞう】
【名】
〈解〉内脏。(動物の胸腔や腹腔にある器官の総称。消化呼吸系·泌尿生殖系·内分泌系の器官をいう。普通は腹腔内にある胃·腸·肝·腎·膵などをいう。漢方では五臓六腑という。)
△内臓が悪い。/内脏有病。
△内臓を摘出する。/切除内脏。
△内臓疾患。/内脏疾患。
[11]僅か①【わずか】
【副·形动】
(1)仅,少,一点点。(数量、程度、価値、時間などが少ないさま。)
△僅か100メートル。/仅仅一百米。
△僅か数語。/寥寥数语。
△残りは僅かしかない。/仅剩下一点儿。
△僅かなことで争う。/为一点小事争论。
△僅かな時間も惜しんで働く。/珍惜点滴时间地工作。
△駅まではもう僅かです。/到车站只有一点距离了。
(2)微,稍。(かすか。)
△僅かな違い。/微小的差别。
△僅かに覚えている。/略微记得。
[12]知覚◎【ちかく】
【名·他动·三类】
(1)知觉。(感覚器官への刺激を通じてもたらされた情報をもとに、外界の対象の性質·形態·関係および身体内部の状態を把握するはたらき。)
△知覚を失う。/失去知觉。
△知覚神経。/知觉神经。
△知覚麻痺。/知觉麻痹。
(2)察觉,认识。(思慮分別をもって知ること。)
△物の道理を知覚する。/懂得事物的道理。
[13]滑らか②【なめらか】
【形動】
(1)光滑,滑溜『口』,平滑,滑润。(平らですべすべしているさま)
△滑らかなはだ/滑腻的皮肤。
△滑らかな声/和谐悦耳'的声音。
△みがいて滑らかにする/磨光。
(2)[说话]流利,流畅;[文章等]通畅,顺溜『口』。(物事がよどみなく運ぶさま。すらすらと進むさま)
△滑らかな話しぶり/口齿伶俐;说话流畅。
△滑らかな弁舌/口若悬河。
△機械が滑らかに動く/机器平稳地运转。
△事が滑らかに運ぶ/事情进行得很顺利。
[14]着実◎【ちゃくじつ】
【名】【形動】
踏〔塌〕实;扎实,牢靠;稳健。(地道で危なげがないこと)
△着実な考え/稳健的想法。
△着実に仕事をする/踏踏实实地工作。
△あせらずに着実に一歩一歩進む/不焦不躁踏踏实实地稳步前进。
[15]上昇◎【じょうしょう】
【名·自动·三类】
上升;上涨。(のぼること。あがること。)
△物価の上昇。/物价的上涨。
△人気上昇中。/正在越来越红。
△急に上昇する。/骤然上升。
△グライダーは上昇気流にのった。/滑翔机滑翔在上升气流之中。
[16]厖大【ぼうだい】
(1)〔非常に大きいこと〕庞大.
(1)〔非常に大きいこと〕庞大.
(2)〔大きくふくれあがること〕膨胀.
(3)〈医〉肿胀,肿大.
[17]指標◎【しひょう】
【名】
(1)指标,目标,标志,标识。(物事を判断したり評価したりするための目じるしとなるもの。)
△景気指標。/景气指标。
△生活水準の指標。/生活水平的指标。
△砂糖の消費量は文化程度の指標になるといわれる。/据说糖的消费量是文明程度的标识。
(2)〈数〉指标,特征标。
[18]込める②【こめる】
【他动·二类】
(1)装填。(ある物の中に、しっかり収め入れる。詰める。)
△銃に弾丸を込める。/往枪镗里装子弹。
(2)包括在内,计算在内。(その中に十分に含める。特に、ある感情や気持ちを注ぎ入れる。)
△税金、サービス料など一切を込めた宿泊料。/包括税钱,服务费等一切费用的住宿费。
(3)集中(精力),贯注(全神)。(力でおさえつける。また、やりこめる。)
△心を込めて書く。/全神贯注地写。
△仕事に力を込める。/把精力集中在工作上。
△まごころを込めた贈り物。/诚恳的礼品。
[19]背伸び①②【せのび】
【名·自サ】
(1)踮起脚。踮脚尖。伸懒腰。以脚尖站立以伸展腰身并增加身长。(つま先立ちになって、背筋を伸ばし、背丈を高くすること。)
△背伸びをする。/踮起脚来。
△背伸びをしても届かない。/踮起脚也够不着。
△ペンを置いて大きく背伸びをする。/放下钢笔,用力地伸个懒腰。
(2)逞能,逞强。打算做超过自己力量的事。(自分の実力以上のことをしようとすること。)
△そんなに背伸びしても疲れるだけだ。/虽然那么逞强,但结果是徒劳无益。
并没有翻译啊。翻译在哪?
不是雪下降,而是我所在的这个世界在宇宙里上升ってどいうことですか?