小さな湾[1] の西の端でバスを降りる。岬はそこからはじまる。海に迫って細い道があり、漁具や網を入れる小屋が一軒ある。道は小屋の裏手[2] を通っている。小屋の羽目板[3] は塩を含んだ風に晒されて[4] ほとんど白に近い色になり、ひびわれ[5] が走っていた。毎年ここを通るたびに見ている光景だ。何も変わっていない。
風はまったくなかったが、寒かった。松林[6] の中を抜ける道をたどって[7] ゆくと、ちょっとした草地[8] があった。草はみんな枯れて[9] いた。地面[10] は湿っぽくて、靴の底がゆるい[11] 地面にめりこんだ。その先で道はまた林に入った。林の中の地面はさらさら[12] していて、靴もめりこまない[13] 。それを踏んで歩くと、やがて岩のごろごろ[14] した海岸に出た。
大気[15] は、暗鬱[16] な重たい雲と暗鬱な色の海に挟まれて圧縮[17] され、ぼくは特別に濃い冷たい空気を吸っているようだった。風が全然なかった。船も通らない。息苦しかった[18] 。
やがて、雪になった。はじめのうち、雪片[19] は軽くて、まるで空気の中から次々に湧いて[20] 出るように漂っていたが、しばらくすると大きく重くなり、あたり全体を埋めて本格的に降りはじめた。手袋[21] をしているのに、岩をつかむ指の先がかじかんで[22] きた。
高い岩の上に坐りこんで、海の方を見た。毎年来るたびに天候はさまざまに変化するが、景色の方はほとんど変わらない。三度目くらいに来た時に定点[23] 観測という言葉を思いついて、それから来るたびにこの周辺[24] や海や対岸の火力発電所をよく見る。いつも前の年とまったく同じような気がする。海があって、岩礁[25] があって、ちょっとした浜があって、その背後[26] は崖になり、崖の上はずっと畑だった。何を作る畑なのかはわからない。崖を攀じのぼって[27] みたこともあったが、三月はじめの畑はいつも寒々[28] としていた。
雪は次第に濃く空気を満たし、火力発電所の煙突[29] は見えなくなった。岩は冷たかった。まわりの全部が冷たかった。ここから見える風景の全体、この地域にあるもののすべてが雪の温度になって、冷たさは均等[30] にゆきわたって[31] いた。自分の体内だけが温度において周囲から突出[32] していることが感じとれた。ぼくはこの場では異物[33] だった。それでも、衣類を透して皮膚が次第にゆっくりと雪の温度に近づいていった。この岩の一部になったら、一日は一秒のように感じられ、一年が一時間のように思われるのだろうか。
[1]湾◎【わん】
【名·接尾】
海湾。海面深入陆地,向外海敞开的地方。(海面が陸地に入り込み、外海に向かって開いている所。)
△三河湾。/三河湾。
[2]裏手◎【うらて】
【名】
背面,后面。建筑物等后侧的一面。(建物などの裏の方。背後。)
△ 神社の裏手に小高い山が見える。/能看神社后面的小山。
[3]羽目板【はめいた】
【名】
壁板,护墙板。
[4]晒す◎【さらす】
(1)〔日光や風雨に〕[日光に]晒,曝晒;[風雨に]让风吹雨打.
(1)〔日光や風雨に〕[日光に]晒,曝晒;[風雨に]让风吹雨打.
(2)〔身をまかす〕暴露,抛露.
△白日のもとにさらされる/暴露在光天化日之下.
(3)〔漂白する〕漂白.
△布を晒す/漂布.
(4)〔首を〕示众;处示众刑.
[5]罅割れ【ひびわれ】
璺,裂纹,裂璺,裂痕,裂缝,裂口,龟裂.
[6]松林【まつばやし】
【名】
松树林;松林【日本地名】
[7]辿る②【たどる】
【他動】
(1)沿路前进;边走边找。(確かめるように道を進む。)
△家路を辿る。/走上回家的路;往家走。
△地図を辿る。/参照地图。
(2)追寻,追溯,探索。(はっきりしていない筋道を訪ね求める。)
△青春の想い出を辿る。/追寻青春的回忆。
△記憶を辿る。/追寻记忆。
(3)〔ひとつの方向へ〕走向。(物事が次第にある方向に進む。)
△破滅の運命を辿る。/走向毁灭的命运。
[8]草地【くさち】
【名】
草地,牧草地.
[9]枯れる◎【かれる】
【自动·二类】
(1)凋零,枯萎,枯死。(草木が死ぬ。)
△木が枯れる。/树木枯萎。
△花は水をやらないと枯れる。/花不浇水就枯萎。
(2)干燥。(よく乾いた。)
△よく枯れた材木。/干透了的木材。
(3)成熟,老练,圆熟。(円熟して深みがでる。)
△人間が枯れている。/为人老练。
△あの人の字はなかなか枯れている。/他的字体很老练。
△名人の枯れた芸を見る。/观看名家的圆熟的技艺。
△彼の芸は年とともに枯れてきた。/他的技艺一年比一年精练了。
(4)枯瘦,干瘪,干巴,衰萎。(やせ衰える。)
△やせても枯れてもおれは武士だ。/虽然衰老潦倒,我也是个武士啊!
[10]地面①【じめん】
【名】
(1)地面,地上(大地の表面。じべた。地上)。
△雨で地面が潤った/地面因下雨湿了。
△地面から1メートル上の所/离地面一米的地方。
△地面には雪が1メートルも積もっている/地上积有一米多深的雪。
△地面すれすれにつばめが飛ぶ/燕子擦着地皮飞。
(2)土地;地皮;地段(土地。地所)。
△広い地面/大片土地。
[11]緩い②【ゆるい】
【形】
(1)松,不紧,肥,肥大,旷(しまっていない)。
△靴が緩い。/鞋肥大。
△ひもの結び方が緩い。/绳系得松。
△帯が緩い。/带子松。
△帽子が緩い。/帽子旷。
(2)缓慢,缓,慢,不急,不陡(傾斜や曲がりぐあい、ものごとの進みぐあいなどが急でない)。
△緩い調子。/徐缓的调子。
△緩いスピード。/慢速。
△緩いカーブ。/慢弯。
△緩い坂。/不陡的坡,慢坡。
(3)不严(厳しくない)。
△取り締まりが緩い。/管理不严。
(4)稀,不浓(薄い)。
△緩いかゆ。/稀粥。
△便が緩い。/(大)便稀。
[12]さらさら◎【さらさら】
【副·形动·自动·三类】
(1)干薄物轻触声沙沙。(乾燥した軽くて薄い物や地裁者が触れ合って発する連続音。)
△木の葉のさらさらという音。/树叶的沙沙响声。
(2)流利地。(流れるように字や絵を描くさま。)
△手紙をさらさらと書き流す。/很麻利地把信一挥而就。
(3)哗啦哗啦,潺潺。(浅い川の水が小石などに当たりながら淀みなく流れる音。)
△小川がさらさら流れる。/小溪哗啦哗啦地流着。
(4)干燥清爽。(湿気がなく心地よく乾いているさま。)
△さらさらした髪。/松散的头发。
△さらさらした雪。/松松散散的雪。
△さらさらした土。/暄土。
[13]減り込む③【めりこむ】
【自动·一类】
嵌入。(因分量重而深深)陷入。(押されるなどしてはまり込む。また、重みなどで沈むようにへこむ。)
△車輪が泥道に減り込む。/车轮陷入泥道里。
△弾丸が柱にめりこんだ。/子弹打进柱子里了。
△足もとの地面がめりこんだ。/脚下的地面沉下去了。
[14]ごろごろ①【ごろごろ】
【副·自动·三类】
(1)雷。(车轮或雷的响声)呼隆呼隆。(雷声)隆隆。咕隆咕隆。咕噜咕噜。(雷がとどろき渡る音。また、それに似た音。幼児語で、雷。)
△ごろごろ様。/雷公。
△雷がごろごろ鳴る。/雷声隆隆。
△おなかがごろごろ鳴る。/肚子(饿得)咕噜咕噜地响。
△猫がごろごろのどを鳴らす。/猫的喉咙呼噜呼噜地响。
(2)(大东西滚动的声音和状态)咕噜咕噜。滚动(的样子)。(重量のある固いものが引っ掛かるように転がっていく音。また、そのさま。)
△大きな材木をごろごろと転がす。/叽里咕噜地滚动大木材。
(3)满处都是。到处都有。到处皆是。(大きな固いものがあちこちに転がっているさま。また、数多く存在していて珍しくないさま。)
△石がごろごろして歩きにくい道。/到处都是石头的难走的路。
△そんな物なら世間にはごろごろしている。/那样的东西社会上到处都有〔多得很〕。
(4)闲呆。无所事事。(人が怠けて何もしないでいるさま。)
△ベッドの上でごろごろしている。/醒着躺在床上。
△失業して毎日ごろごろしている。/失业了,每天闲呆着〔无所事事〕。
△日曜には家でごろごろしている。/星期天在家里闲呆着。
△あの家にはいつも4,5人の居候がごろごろしている。/那家总有四五个吃闲饭的出来进去。
(5)(異物が触れて違和感があるさま。)
△目にごみが入ってごろごろする。/眼睛进了灰,直磨得慌。
[15]大気①【たいき】
【名·形动】
(1)大气,空气。(地球をとりまく気体の層。)
△大気は地表から遠のくほど希薄になる。/离地表越远,大气就越稀薄。
△すがすがしい朝の大気。/早晨清新的空气。
△大気圏。/大气圈;大气层。
△大気圏外。/外层空间。
△大気汚染。/大气污染。
(2)度量大。宽宏大量。(心の大きいさま。細かいことにくよくよしないさま。大度。)
△大気な人。/宽宏大度的人。
[16]暗鬱◎【あんうつ】
【名·形动】
暗淡,阴郁。(気持ちが暗くふさぎこんでいること。また、そのさま。)
△暗鬱な表情。/阴郁的表情。
[17]圧縮◎【あっしゅく】
【名】【他动·三类】
(1)〔体积〕压缩。(物体や気体に圧力を加えて、容積を小さくすること)
△気体を圧縮する/压缩气体。
△圧縮ひずみ/压缩应变。
(2)〔长度〕缩短。(文書などを、ちぢめて短くすること)
△原稿を半分に圧縮する/把原稿缩短一半。
(3)〔数据〕压缩。(コンピューターで扱うデータを一定のアルゴリズムを用いて変換し、小さくすること)
△データを圧縮する/压缩数据。
[18]息苦しい⑤【いきぐるしい】
【形】
(1)呼吸困难,喘不上气,气促憋闷。(呼吸が十分にできず,苦しい。)
△息苦しい暑さ。/闷热。
△電車が超満員で息苦しい。/车内人超级多,感觉喘不过气来。
(2)苦闷,郁闷,令人窒息,沉闷。(胸を圧迫されるような,重苦しい感じである。)
△彼といっしょにいると息苦しく感じる。/和他在一起就感到沉闷。
△息苦しいほどの緊張感。/紧张到令人感到窒息。
[19]雪片【せっぺん】
雪片
[20]湧く◎【わく】
【自动·一类】
(1)涌出,冒出,喷出。(水などが地中から噴き出る。)
△温泉が湧く。/温泉涌出。
△天から降ったか地からわいたか。/从天上掉下来的,还是从地下冒出来的·
(2)涌现,产生,发生。(ある考えや感情が生じる。)
△なかなか実感がわかない。/很难产生实感。
△歴史に興味が湧く。/对历史产生兴趣。
(3)大量涌现,孳生。(虫などが、一時に発生する。)
△うじが湧く。/生蛆。
△しらみが湧く。/生虱子。
△ぼうふらが湧く。/孳生孑孓。
[21]手袋②【てぶくろ】
【名】
手套。(防寒や保護、装飾のために手にはめる袋状のもの)
△革の手袋/皮手套。
△手袋をはめる/戴手套。
△手袋を取る/摘下手套。
△手袋1組/一双手套。
[22]悴む【かじかむ】
【自动·一类】
(1)冻僵。(手足が凍えて思うように動かなくなる。)
△手がかじかんで字が書けない。/手冻僵了,写不了字。
(2)憔悴,消瘦。(生気がなくなってやせおとろえる。)
[23]定点①【ていてん】
【名】
(1)〈数〉定点。(定まった位置の点。一定の地点。)
△円周上の定点A。/圆周上的定点A。
(2)(为继续观测气象、海洋,国际上规定的十八个)海上定点。(気象·海洋観測の目的で、国際的に定められた海洋上の18か所の地点。)
△定点観測船。/定点观测船。
[24]周辺◎【しゅうへん】
【名】
周边,四周。(あるものをとりまいている、周りの部分。また、あるものの近く)
△都市の周辺にある農村/城市四周的农村。
△東京の周辺部/东京周围。
△事件の周辺/事件的外围情况。
[25]岩礁◎【がんしょう】
【名】
岩礁,暗礁。(海面下にかくれていて見えない、大きな岩。)
△船が岩礁に乗り上げそうになった。/船差点就撞上暗礁了。
[26]背後①【はいご】
【名】
(1)背后。〔物のうしろ。背中の方。後方。〕
△背後は海だ。/背后是大海。
△背後から襲う。/从背后袭击,暗箭伤人。
△背後に敵が迫る。/敌人从后面逼近。
(2)背地,幕后,背后。〔裏側。物事の表面に現れていない陰の部分。〕
△犯罪の背後。/犯罪的幕后关系。
△犯人を背後であやつっているやつがいちばん悪い。/在犯人背后进行教唆的家伙是最坏的。
△背後関係を調査する。/调查幕后关系。
[27]攀じ登る④◎【よじのぼる】
【自动·一类】
攀登,爬上。(物にとりすがってのぼる。)
△木を攀じ登る。/爬树。
[28]寒寒③【さむざむ】
【副】【自动·三类】
(1)冷冰冰,冷飕飕。( いかにも寒そうなさま。)
(2)萧索,凄凉。(心が冷えるさま。殺風景なさま。)
△寒々とした景色。/萧索的景象。
[29]煙突◎【えんとつ】
【名】
(1)烟筒,烟囱。(煙を外部に排出するためにつくられた筒型の装置。)
△煙突掃除。/扫烟筒(工人)。
△煙突が煙る。/烟筒倒烟。
△煙突がつまる。/烟筒堵了。
(2)计程车司机间的隐语,指挂着空车的牌子接载客人,以此赚取额外的收入这种不正当的行为。(タクシー運転手の隠語。空車表示のまま客を乗せて、料金をごまかす不正行為をいう。)
[30]均等◎【きんとう】
【名·形动】
均等,均匀,平均。(二つ以上のものの間に、差が全くなく等しいこと。)
△機会均等。/机会均等。
△均等に分けられない。/匀不开。
△費用を均等に負担する。/平均分担费用。
△納税の負担を均等にする。/使纳税的负担均匀。
△均等の待遇を受ける。/受同等待遇。
△寄付を均等に割り当てる。/均摊捐赠。
△均等画法。/等距画法。
△均等割り。/均摊。
[31]行き渡る【ゆきわたる】
【自动·一类】
(1)普遍。普及。(広い範囲にもれなく届く。隅々にまで及ぶ。いきわたる。)
△全家庭に行き渡る。/普及到整个家庭。
(2)遍及。( 世間に広く普及する。いきわたる。)
△宣伝が行き渡る。/广泛宣传。
[32]突出◎【とっしゅつ】
【名·自动·三类】
突出。(突き破って出ること·)
△岬がずっと海へ突出している。/岬角远远突入海中。
[33]異物◎①【いぶつ】
【名】
(1)异物。进入体内的食物以外的东西,亦指体内的癌瘤、结石等妨碍正常机能的赘生物。(体内に入った食物以外の物。また、体内で発生した癌·結石など正常機能に障害を起こすもの。)
△飲みこんだ異物を吐き出す。/吐出咽下的异物。
(2)异物,怪物。不同寻常之物,怪异的东西。(普通とは違ったもの。怪しいもの。)
并没有翻译啊。翻译在哪?
不是雪下降,而是我所在的这个世界在宇宙里上升ってどいうことですか?