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第八課 案内者
假名上标的版本点这儿 (。・∀・)ノ゙:假名上标
本文
寺田寅彦
電車(でんしゃ)に跳(は)ね飛(と)ばされてけがをした
どこかへ旅行りょこうがしてみたくなる。しかし別にどこという決まったあて[T1] がない。そういう時に旅行案内記のたぐい[T2] をあけてみると、あるいは海浜、あるいは山あい[T3] の湖水、あるいは温泉といったように、行くべき所がさまざまありすぎるほどある。そこでまず仮に[T4] 温泉なら温泉と決めて、温泉の部を少し詳しく見てゆくと、各温泉の水質や効能、周囲の形勝名所旧跡などのだいたいがざっと[T5] わかる。しかしもう少し詳しく具体的のことが知りたくなって、今度は温泉専門の案内書を捜し出して読んでみる。そうするとまずぼんやり[T6] とおおよそ[T7] の見当が[T8] ついてくるが、いくら詳細な案内記を丁寧に[T9] 読んでみたところで[T10] 、結局本当(けっきょくほんとう)のところは、自分で行ってみなければわかるはずはない。もしもそれがわかるよう[T11] ならば、うちで書物だけ読んでいれば、わざわざ出かける必要はないと言ってもいい。次には念のため[T12] にいろいろの人の話を聞いてみても、人によってかなり言うことが違っていて、だれのオーソリティ[T13] を信じていいかわからなくなってしまう。それでさんざんに調べた最後には、つまりいいかげんに、賽でも投げる[T14] と同じような偶然な機縁によって目的の地をどうにか決めるほかはない。
こういうやり方はいわばアカデミック[T15] なオーソドックス[T16] なやり方であると 言われる。これは多くの人々にとって最も安全な方法であって、こうすれば めったに大きな失望やとんでもない違算を生ずる心配が少ない。そうして主要な名所旧跡(めいしょきゅうせき)をうっかり[T17] 見落とす[T18] 気遣いもない。
しかしこれと違ったやり方もないではない。例えば旅行がしたくなると同 時に最初から賽をふって行く所を決めてしまう。あるいは偶然に読んだ詩編 か小説かの中である感興に打たれたような場所に決めてしまう。そうして案内記などにはてんでかまわないで飛び出して行く。そうして自分の足と目で 自由に気に向くままに歩き回り見て回る。この方法はとかく[T19] いろいろな失策や困難を引き起こしやすい。またいわゆる名所旧跡(などのすぐ前を通りながら知らずに見逃してしまったりするのはありがちなことである。これは危険の多いヘテロドックス[T20] のやり方である。これはうっかり一般の人に薦めることのできかねる[T21] やり方である。
しかし、前の安全な方法にも短所はある。読んだ案内書や聞いた人の話が、 いつまでも頭の中に巣をくっていて[T22] 、それが自分の目を隠し耳を覆う。それがためにせっかくわざわざ出かけて来た自分自身はいわば行李の中にでも押し込められたような形になり、結局案内記(けっきょくあんないき)や話した人が湯に入ったり見物したり享楽したりすると同じようなことになる、こういうふうになりたがる恐れがある。もちろんこれは案内書や教えた人の罪ではない。
しかしそれでも結構であるという人がずいぶんある。そういう人はもちろんそれでよい。
しかしそれでは、わざわざ出て来たかいがない[T23] と考える人もある。まがりなりにでも[T24] 自分の目で見て自分の足で踏んで、その見る景色、踏む大地と自分とが直接にぴったり触れ合う時にのみ感じ得られる鋭い感覚を味わわなければ何にもならないという人がある。こういう人はとかくに案内書や人の話を無視し、あるいはわざと避けたがる。便利と安全を買うために自分を売ることを恐れるからである。こういう変わり者はどうかすると万人の見るものを見落としがちである代わりに、いかなる[T25] 案内記にも書いてないいいものを掘り出す機会がある。
[T1]あて【当て】
(1)〔目当て〕目的,目标.
▲ ~のない旅/没有目的的旅行.
▲ ~もなくさまよう/漫无目的地流浪.
(2)〔見込み〕期待,指望;[頼み]依赖,依靠.
▲ 友人の援助を~にする/指望朋友的援助.
▲ ~がはずれる/期待落空.
(3)〔かぶせるもの〕垫敷物,垫布.
▲ ズボンのひざ~/裤子(里面)的垫膝布.
▲ 肩~/肩带.
[T2]たぐい【類】
(1)〔同じ種類〕类,同类.
▲ この~には関心がない/对这一类不关心.
▲ これは虫の~だ/这是虫子之类.
(2)〔並ぶもの〕匹敌.
▲ 世に~がない名器/稀世珍品.
▲ 彼女は~まれな才能を持っている/她有罕见的才能.
[T3]やまあい【山間】
山沟,山谷,峡谷.
▲ ~の村/山沟里的村子.
[T4]かりに【仮に】
(1)〔間に合わせに〕暂时,临时; 暂且,姑且.
▲ ~使う/暂用.
▲ ~建てた家/临时建起的房子.
(2)〔もし〕假设,假如; 即使,即便.
▲ ~雨なら延期にしよう/假如下雨的话就延期吧.
▲ ~ぼくがきみだったらそうはしなかっただろう/如果我是你的话也许不会那样做.
[T5]ざっと
(1)〔大まかに〕粗略地,简略地;[だいたい]大略,大致.
▲ ~目を通す/略一过目;粗粗地看了一遍.
▲ ~読んでみた/大致读了一下.
▲ ~列挙してみる/笼统地lǒngtǒngde列举lièjǔ一下.
(2)〔おおよそ〕大约,大概.
▲ ~1万人が集まった/大约聚集了一万人.
▲ 損害は~1億円の見込みだ/损失估计约有一亿日元.
(3)〔水音が〕哗啦,刷地.
▲ ~夕立が来た/刷地一下子下起阵雨来了.
[T6]ぼんやり(と)
(1)〔ぼやけている〕模糊,不清楚.
▲ 遠くに建物らしいものが~見える/远处模模糊糊的能看见一个建筑物似的东西.
▲ 遠すぎて~としか見えない/离得太远,模模糊糊的看不清.
(2)〔放心〕发呆,恍惚,心不在焉;(成),无所事事.
▲ ~と窓の外を眺めていた/呆呆地望着窗外.
▲ ~聞いていたので頭に入らなかった/心不在焉地听着没听进脑子里.
[T7]おおよそ
(1)〔大体〕大体,大概,大约.
▲ ~の事情は聞いている/大概情况已经听到了.
▲ ~1か月前のことです/是大约一个月以前的事情;是前个把月的事.
(2)〔一般に〕凡是,一般地.
▲ ~人は地球の資源を利用しないと生きられない/一般说来人不利用地球上的资源是无法生存的.
[T8]けんとう【見当】
(1)〔見込み〕[大まかな]估计;[想像による]推测,推断;[予想]预想.
▲ 会費は5万円くらいと~をつける/估计会费是五万日元左右.
▲ おおよその~がつく/大体上的情况可以推断出来.
(2)〔方向〕方向,目标.
▲ 出口はどこか~がつかなくなった/出口是在什么地方摸不着方向了.
▲ 学校はこの~にある/学校是在这个方向上.
(3)〔ぐらい〕大约,左右.
▲ 60~の老人/六十岁左右的老人.
▲ 旅行費用は一人10万円~と考えている/旅行费用预计每人十万日元左右.
[T9]ていねい【丁寧】
(1)〔礼儀正しい〕有礼貌,恭敬.
(2)〔注意深い〕细心,精心,认真.
▲ 本を~に取り扱う/非常爱护书本.
▲ ~に説明する/详细地解释.
▲ あの先生は~に教えてくれる/那位老师认真地教我们.
[T10]……たところで
即使……也
[T11]–よう【様】
(1)〔さま〕[様子]样子.
[T12]ねんのため【念の為】
慎重起见; 为了弄清楚.
▲ ~ひと言付け加えておきます/慎重起见,我再补充几句.
▲ ~もう一度部屋を探した/为了弄清楚,又把屋子里找了一遍.
[T13]オーソリティー
权威,泰斗.
▲ 歴史学の~/史学权威.
[T14]さい【采・賽】
色子,骰子.
[T15]アカデミック
学究式的; 不落实的,空谈理论的.
▲ ~な雰囲気/学究式的气氛.
▲ きわめて~な議論/极其学究式的议论.
[T16]オーソドックス
正统派; 正统的.
▲ ~な方法/正统的方法.
▲ ~に考える/按正统的方式思考.
[T17]うっかり
不注意,不留神;[無意識に]无意中,稀里糊涂;[うわの空]心不在焉.
▲ ~した過ち/不小心造成的错误;无心之过.
▲ ~約束を忘れてしまった/糊里糊涂地忘记了有约会.
▲ ~して乗り越した/没留神坐过站了.
[T18]みおとす【見落とす】
看漏,忽略过去.
▲ 番号を~/忽略了号码.
▲ 見落とさないように注意して探せ/(要)注意查找,不要忽略过去.
[T19]とかく
〔ともすれば〕动辄,总是.
▲ 寒いときには~風邪を引きやすい/天冷的时候总好着凉.
▲ 若い者は,~そういうふうに考えるものだ/年轻人总是爱那么想.
[T20]ヘテロドックス(heterodox)
异端,邪说
[T21]–かねる
不便; 不能; 难以
▲ 納得し~/难以理解.
▲ ちょっと断り~/难以拒绝.
[T22]すくう【巣くう】
(1)〔鳥などが〕筑巢,搭窝.
▲ 木の上にカラスが巣くっている/乌鸦在树上搭了窝.
(2)〔悪人が〕(坏人)占据;[非合法的に]盘踞.
▲ この辺にはやくざがすくっているらしい/这一带好像地痞无赖占据着.
[T23]甲斐がない
没有……的价值;白白……
[T24]まがりなりにも【曲がりなりにも】
勉勉强强;好歹.
▲ ~できた/好歹算做好了.
▲ ~それをやり遂げた/总算把它完成了.
▲ ~大学を卒業する/大学勉强毕业.
いかなる【如何なる】
怎样的, 任何的.
▲ ~危険も恐れない/不怕任何危险.
▲ ~人物か会ってみよう/见面看看他是个什么样的人.