必要なものを仕入れ[1] にきたのです、と彼は言った。わたしは本気で困ってしまう。だって、こんな珍しい人が欲しがるモノなんて、この島には何処にもない。
「他をあたるべきよ。わたし、そんな貴重なものは持っていないわ」
「いえ。商人の基本は、足りないモノを買う、というコトです。こちらで貴重とされるものは、私には有り余って[2] います。ですから、その逆もあるのです。物語を知りませんか。どこにもない、出版されていないものです」
わたしはまたも、特に理由はなく、ブリキの彼をまじまじ[3] と見つめてしまった。
大人のように落ち着いた彼が、子供みたいな要求をしたからだろうか。すとん[4] 、と言葉が胸に落ちる。普段なら馬鹿にするところなのに、わたしはごく自然に、その仕入れに協力したくなっていた。
「それなら一つ、お望みの歌があるわ。おばあちゃんから教わった[5] 話だけど、それでいいかしら」
「口伝[6] とはまた高価なものを。ですが申し訳ありません、私は貴方たちの言葉を正しく聞き取れないのです。お手数ですが、文字にしていただけませんか」
ブリキの彼はわたしたちの言葉に疎い[7] らしい。よく今まで話せたものだと呆れた[8] けれど、振り返ってみれば、そんな流暢[9] には会話していなかったっけ。
「ええ、存じ上げて[11] おります。次の満月に帰りますので、それまでに本にしていただければ。ですぎた[12] 真似[13] ですが、私がご教授[14] してさしあげましょう」
彼はとん、と胸を叩いた。任せろ、という表現らしい。ちっとも頼もしく[15] ない。勉強不足がこんな事で祟る[16] なんて。人類はとっくに終わったのに、わたしの人生は波乱[17] 含みだ。
それは、まあ、それとして。
「ところで。海月[18] が力強い[19] って、どうして?」
わたしは一番はじめの疑問を問いかける。
「ずいぶんと昔の話ですが、海月の仲間の一つが細胞死による老化[20] 問題を解消しています。永続[21] を実現させた数少ない[22] 動物です。海月というのは、存外[23] にたくましい生命なのです」
彼はやっぱり、丁寧な口調[24] で小難しい[25] データを返した。
[1]仕入れ◎【しいれ】
【名】
买进,购买;采购,采办,采买。(商品,原材料を仕入れること。)
△商品の仕入れ/商品的采购。
△仕入れを少なくする/减少进货。
△仕入れに行く/办货去。
△仕入れ値/进货价。
△仕入れ係/担任进货的人;采购员。
△仕入れ金/进货款。
△仕入れ先/供货厂商。
△仕入れ帳/进货簿。
△仕入れ物/购进的货物。
[2]有り余る④【ありあまる】
【自动·一类】
有很多,过多。(余るほどある。必要よりも多くある。)
△有り余る体力。/体力过剩。
[3]まじまじ③【まじまじ】
【副·サ变】
凝视。盯。目不转睛。(じっと見つめるさま。)
△我が子の寝顔をまじまじと見つめる。/凝视着我孩儿的睡脸。
△相手の顔をまじまじと見つめる。/死盯着对方的脸。
[4]すとん【none】
[副]唰地,一下子
[5]教わる◎【おそわる】
【他动·一类】
受教,学习。(教えられる。)
△ピアノを音楽教師に教わっている。/正在跟音乐教师学钢琴。
[6]口伝◎【くでん】
【名】【他动·三类】
口头传送,口授,传授秘诀的缮本。(〔秘伝などを〕師から弟子に直接口頭で伝え授けること。また、その秘伝(書)。)
[7]疎い②【うとい】
【形】
(1)疏远。〔縁遠い。〕
△二人の仲はだんだん疎いものになってきた。/两个人的关系逐渐疏远起来了。
△去る者は日々にうとし。/去者日日疏。
(2)不了解,生疏。〔不案内だ。〕
△世事に疎い。/不谙世故。
△実情に疎い。/不了解真实情况疏远的;不了解的。
[8]呆れる◎【あきれる】
【自动·二类】
吃惊,惊讶;吓呆,发愣,愕然。(あまりの意外さにどのようにしてよいかわからなくなる)
△こんなひどいものが5千円だって?あきれたね/这样次的货要五千日元?真吓人。
△君の記憶の悪いのにはあきれた/真想不到你的记性这么坏。
△あきれてものも言えない/吓得说不出话来。
△みんなあきれて顔を見合わせた/大家惊〔吓〕得面面相觑。
△あきれたやつだ/这种人真少有!真是个不可救药的家伙。
△あきれた/不象话!好家伙!
△あきれて開いた口がふさがらない/惊讶得目瞪口呆。
[9]流暢①【りゅうちょう】
【形动】
流畅,流利。(話しぶりがなめらかでよどみないこと。)
△流暢な話ぶり。/流利说话的样子。
△日本語を流暢に話す。/日语说得很流利。
[10]読み書き③【よみかき】
【名】
读书写字,学问。(文字や文章を読むことと、書くこと。)
△読み書きを学ぶ。/学习书写。
[11]存じ上げる⑤【ぞんじあげる】
【自动·二类】
知道,想,认为。([知る][思う] の意の謙譲語。)
△お名前は存じ上げております。/知道名字。
[12]出過ぎる③◎【ですぎる】
【自动·二类】
(1)突出,过分往前。(適当な、また決められた限度を越えて出る。)
(2)越分,僭越,冒失,多管闲事。(差し出がましい言動をする。)
△出過ぎた真似をするな。/别多管闲事。
[13]真似◎【まね】
【名·自他动·三类】
(1)学(練習して);仿效,模仿(そっくりに);效法(範とする);装。(ふりをする。)
△人の真似がうまい。/善于模仿人。
△死んだ真似をする。/装死。
△他人の話しぶりの真似をする。/模仿别人的说话腔调。
△だれも真似のできないことをする。/做无人能仿效的事。
△子どもが医者の真似をして遊ぶ。/小孩子做当医生的游戏玩儿。
△おびえた真似をしてキャーッと言う。/装作害怕的样子,哇地尖叫一声。
(2)举止,动作。(ふるまい。)
△いったいなんの真似だ!/你这是什么意思!
△ばかな真似をするな!/别做糊涂事!别一时冲动!
[14]教授◎①【きょうじゅ】
【名】【他动·三类】
(1)教,教授,教学,讲授(学問·技芸を伝え教えること)。
△日本語を教授する/教日文。
△英語の教授をする/教英语。
△先輩の教授を受ける/受教于前辈。
(2)教授(大学などの高等教育機関において,専門の学問·技能を教え,また自らは研究に従事する人の職名。准教授·講師の上位)。
△大学の教授になる/当大学教授。
△名誉教授/名誉教授。
△助教授/副教授。
△教授陣/教授阵容。
[15]頼もしい④【たのもしい】
【形】
(1)可靠,靠得住。(頼りにできそうで心強い。)
△彼は頼もしい人だ/他是一位靠得住的人。
(2)有出息,有望。(将来に期待がもてる。将来が楽しみだ。)
△頼もしい音楽家/前途有望的音乐家。
[16]祟る②【たたる】
【自动·二类】
(1)降灾,作祟。(神仏や怨霊(おんりょう)などが災いをする)
△物の怪に祟られる。/阴魂作祟。
(2)产生恶果,遭殃。(何かが原因となって悪い結果が生じる。)
△無理が祟って病気になる。/勉强最后生病了。
[17]波乱◎【はらん】
【名】
(1)波澜,风波。闹事,骚乱,纠纷,亦指动乱。(さわぎ。もめごと。ごたごた。また、争乱。)
△平地に波乱を起こす。/平地起风波
△波乱を巻き起こす。/引起风波
(2)波澜,曲折多变,起伏不平。不单调,变化不定。(単調でなく、変化のあること。)
△この小説は波乱があって面白い。/这部小说情节起伏很有意思。
△波乱に富んだ一生。/波澜动荡的一生。
(3)波澜。浪,大小波涛。(なみ。大小の波。)
[18]海月◎【くらげ】
【名】
水母;海蜇;没有定见的人
[19]力強い⑤【ちからづよい】
【形】
(1)觉得胆子壮;心里踏实;有仗恃。〔心づよい。〕
△力強い助け。/有力的援助。
△あなたがそばにいると力強い。/有你在旁边,就觉得胆子壮。
(2)强有力;矫健。〔力がある。〕
△力強い呼びかけ。/强有力的号召。
△力強い声が会場にひびきわたった。/一阵铿锵有力的声音响彻会场。
△力強い足どりで前進する。/迈着矫健的步伐前进。
[20]老化◎【ろうか】
【名·自サ】
(1)老化。生物或物质的机能和性质衰退的现象,如机体的老年性变化,橡胶、塑料等时效劣化等。(生物あるいは物質の機能や性質が、時間の経過に伴って衰える現象。生物体の老年性変化、ゴム·プラスチックなどの経年劣化など。加齢。劣化。エイジング。)
△ゴム製品の老化防止剤。/橡胶制品的老化防止剂。
(2)衰老。因上年纪而身体机能低下。(年をとること。年をとって体の機能が低下すること。)
△体の老化が始まっている。/(身体)开始衰老。
[21]永続◎【えいぞく】
【名】【自动·三类】
持续,持久。(ながく続くこと。長続き。)
△永続性。/持久性。
[22]数少ない【かずすくない】
少数であるさま。数が少ないさま。貴重である、という意味合いが用いられることが多い。
[23]存外◎【ぞんがい】
【名·形动】
意外、没想到。(思いのほか。案外。)
△存外うまくいかなかった。/意外的不顺利。
[24]口調◎【くちょう】
【名】
(1)语调,声调。(口で言ってみた時の調子。)
△荒々しい口調/粗暴的语调。
△穏やかな口調/柔和的语调。
△口調がいい/声调好听。
(2)腔调。(口のきき方に現われる特色。話し方。)
△口調を改める/改口。
△演説口調/演说的腔调。
[25]小難しい⑤【こむずかしい】
【形】
有点麻烦的;有点严格的;不太高兴的