魚の不漁[1] で、そのあおり[2] を食うのは私たち人間である。私は先に、父と母が2児[3] を抱えて、漁村の苫前村から旭川に出て来たことに触れた。実は父の家は、その村でも大きなよろず屋[4] を経営していた。父の父、すなわち私の祖父は、佐渡[5] 島から15歳の時に、,行商[6] をして苫前に来、住みつくに至った。そして苦労の末、白壁[7] の土蔵[8] を3棟[9] も持つ大商店として栄えた[10] 。米、醤油、味噌、砂糖、酒、煙草、文房具[11] 、衣料品等々、扱う品数[12] も多かったが、何より大きな得意先は網元[13] だった。ヤン衆といって、鰊漁の季節だけ出稼ぎ[14] に来る人たちを、網元は何十人も寝起きさせる。それに要する品物を、網元は祖父の家からツケ[15] で買ったとか。
鰊漁が終ると、多額[16] の金が祖父のもとに転げこんだ。毎年豊漁[17] の時はこれでよかった。長男の父は働くことを知らずに育った。美しい祖母も、花札[18] など賭事を覚えて家業をおろそか[19] にした。幸い人々から仏[20] さんと呼ばれていた祖父と、忠実[21] な番頭[22] の2人で店はびくともしなかった。
しかし、祖父が死んだ明治末期、鰊不漁の年が4、5年続いた。立派な鰊御殿[23] を建てたさすがの網元も、次第に左前になっていった。網元がころべば[24] 、祖父の残した店もころぶ。こうして鰊場盛衰[25] 史の中に、祖父の家は消えて行った。
私は、北海道の本当の根っこ[26] は何かと考える時、決まってアイヌの人たちの、英知[27] に富んだ生き方を思わずにはいられない。今からでも遅くはない。本気になって考えていいのではないか。
(一部削除あり)1992年11月4日『北海道新聞』による
[1]不漁◎①【ふりょう】
【名】
捕鱼量少。(漁で、獲物が少ないこと。魚がとれないこと。)
[2]煽り③◎【あおり】
【名】
(1)扇动,冲击。(あおること。風に吹かれて動くこと。)
△爆風の煽りをくう。/遭受爆炸气浪的冲击。
(2)余势,余波。(余勢。)
△恐慌の煽りで破産した。/因经济恐慌的影响而破产。
△煽りを食う。/ (因在旁边)遭受意外的灾难或影响。
[3]児①【じ】
【名】
(1)幼儿,儿童。〔子ども。〕
△健康優良児。/健康情况优良的儿童。
(2)人。〔男子。〕
△幸運児。/幸运儿。
△熱血児。/热性汉。
[4]万屋【よろずや】
(1)〔店〕杂货店,百货店.
(1)〔店〕杂货店,百货店.
(2)〔なんでも知っている人〕万金油,多面手,万事通.【名】
[5]佐渡【さど】
【日本地名】
[6]行商◎【ぎょうしょう】
【名】【他动·三类】
行商。(店を構えず、商品を持って売り歩くこと。また、その人。)
△野菜を行商する。/做蔬菜生意。
[7]白壁【しらかべ】
【日本地名】【名】
白壁;白墙
[8]土蔵◎【どぞう】
【名】
(外涂泥灰的)仓库。(盗難·火災に備えて、四面を土や漆喰(しっくい)などで塗り固めた倉庫。)
[9]棟【とう】
座,栋,所,幢.第3棟/第三栋楼.
△病棟は5棟ある/有五栋病房.
[10]栄える③【さかえる】
【自动·二类】
繁荣兴盛,兴旺,昌盛,隆盛。(勢いが盛んになる。繁栄する。)
△店が栄えている。/商店的生意兴隆。
△京の都に栄えた平家の一族。/在京都荣华一时的平氏一族。
[11]文房具③【ぶんぼうぐ】
【名】
文具。(読書したり,書き物をしたりするときに使う道具。ペン·インク·鉛筆·ノート·消しゴム·定規·筆·硯など。文具。)
△文房具のセット。/一套文具。
△文房具屋。/文具商店;文化用品商店;文具商人。
[12]品数③【しなかず】
【名】
物品的种类,品种。(品物の種類。)
△品数が少ない。/品种很少。
[13]網元◎【あみもと】
【名】
船主,渔霸。(漁網·漁船などを所有し、網子(漁師)を雇って漁業を営む者。)
[14]出稼ぎ◎【でかせぎ】
【名·自动·三类】
出外做活,出外挣钱(的人),到外地打短工。(一時期、他の地方や国で働くこと。)
△冬の間は都会へ出稼ぎに行く。/冬天到城市里去做活。
[15]つけ◎【つけ】
【接尾】
经常……,习惯……。(いつもして慣れていることの意を表す。)
△買いつけの店/经常去买东西的铺子。
△行きつけの所/常去的地方。
△かかりつけの医者/经常请给看病的医生;熟悉的大夫。
[16]多額◎【たがく】
【名·形动】
大数量,大金额。(金額などの多いこと。)
△多額の借金がある。/有巨额借款。
△多額の費用がかかる。/需要大笔费用。
△多額の利潤をあげる。/赚得厚利。
[17]豊漁◎【ほうりょう】
【名】
(捕鱼)丰收,渔获量大。(魚などがたくさんとれること。大漁。)
[18]花札②◎【はなふだ】
【名】
花纸牌,花骨牌。用来玩配花的纸牌。从1月到12月的个个月分别用画有松、梅、樱、紫藤、燕子花与菖蒲、牡丹、胡枝子、芒草与月、菊、红叶、柳与雨、桐的牌来表示。每种4张,共计48张牌。(花合わせに用いる札。松·梅·桜·藤·あやめ(かきっばた)·牡丹·荻·すすき(坊主)·菊·紅葉·柳(雨)·桐の12種を描いた札を1~12月に当て、それぞれ4枚ずつ合わせて48枚の札にしたもの。また、それを使ってする遊び。花ガルタ。)
△花札で遊ぶ。/玩花纸牌。
[19]疎か②【おろそか】
【形动】
疏忽,玩忽,不认真,马马虎虎,草率。(いい加減なさま。なおざり。)
△準備が疎かだ。/准备得草率。
△管理が疎かだ。/管理得不认真。
△疎かにする。/忽视;等闲视之;走过场。
△勉強を疎かにする。/不认真学习。
△勤めを疎かにする。/玩忽职务。
△客を疎かにする。/慢待客人。
△受け持ちの仕事はけっして疎かにはしない。/对于担任的工作决不马虎。
△なにごとも疎かにせず。/一丝不苟。
△一方に気をとられて他方が疎かになる。/顾此失彼。
[20]仏◎【ほとけ】
【名】
(1)佛(仏陀);佛像(仏像);释迦S。(釈迦。)
△仏の教え。/佛教(的教义)。
△知らぬが仏。/不知道不烦恼; 眼不见为净。
(2)死者,亡魂。(死者。)
△仏もさぞ満足でしょう。/死者也必定满意于九泉之下。
△仏が浮かばれない。/死者不能瞑目;亡魂不得超度。
△仏つくって魂入れず。/画龙而不点睛。
△仏の顔も三度。/事不过三。
△仏の光より金の光。/金光胜过佛光;金钱万能。
[21]忠実◎【ちゅうじつ】
【名·形動】
(1)忠实;忠诚。(まごころを尽くしてよくつとめること。)
△忠実な家来。/忠实的家臣。
△職務に忠実である。/忠于职守。
△任務を忠実に行う。/忠实地执行任务。
(2)忠实于,如实,照原样。(実際の通りに正確に行うこと。原型どおり。)
△原文に忠実に訳す。/按照原文如实地译出;忠实于原文地翻译。
△忠実に写しとる。/照原样抄写;不走样地抄写。
[22]番頭③【ばんとう】
【名】
(1)掌柜的,领班。( 商家などの使用人のかしら。営業·経理など、店のすべてを預かる者。)
△大番頭。/总管,大伙计。
(2)搓澡的。(風呂屋の番台に座る者。のち、風呂屋の下男や三助にもいった。)
[23]御殿【ごてん】
(1)府第,府邸.
(1)府第,府邸.
(2)〔豪邸〕豪华的住宅.【名】
[24]転ぶ◎【ころぶ】
【自動】
(1)滚,滚转。(回転しながら、動いて行く。転がる。)
△まりが転ぶ/球滚。
△転ぶように走る/叽哩咕噜地跑。
△転んでいかない/滚不过去。
(2)倒下,跌倒。(倒れる。人が滑ったり、つまずいたりしてして倒れる。)
△つまずいて転ぶ/绊倒。
△すってんころりとあおむけに転ぶ/摔了个仰面朝天。
△転ばないように/别摔着了啊!
△転んでまた起きる/跌倒又爬起来。
△子どもがすべって転んだ/小孩儿滑倒了。
△彼は転んで片足を折った/他跌倒摔断了一条腿。
(3)趋势发展,事态变化。(事態の進展する方向が変わる。)
△どっちへ転んでも損はない/不论结果如何都没有亏吃。
(4)(江户时代信奉耶稣教Y的人受镇压而)改信佛教F;转向。(ギリシタンが弾圧に屈して改教する。)
[25]盛衰◎【せいすい】
【名】
盛衰;兴衰。(一時期盛んであったものが、おごりのため(時運が移って)やがて衰えること。)
△ 栄枯盛衰は世の習い。/荣枯盛衰世之常情。
△ 世と盛衰をともにする。/与世沉浮。
△ 国家の盛衰にかかわるでき事。/有关国家兴衰的大事。
[26]根っこ◎【ねっこ】
【名】
(1)(植物的)根。(木の切株。くいぜ。)
△木を根っこから掘り起こす。/将树连根拔起。
(2)根基,根本。(根もと。根。)
△いじめ問題の根っこにあるもの。/欺侮现象的根本问题。
[27]英知①【えいち】
【名】
睿智,才智,有洞察力。(優れた智識知恵。深い知性。)
△英知に満ちた表現。/充满睿智的表现。
△英知に富んだそう明な政治家。/英明而聪慧的政治家。
群を成す 群むれ