正月風俗は、子供時代の記憶の中でもとくに美しいものの一つである。しかしどういうわけか、物ごころ[1] がついてから、そういうものの中にとけ込めない。
パリにいたころ、まだ日本人も少なかったので、大使館に呼ばれて正月料理のご馳走になった。集まった人たちは結構楽しそうだったし、私自身も、ある懐かしさは感じた。しかし二度と出かけることはなかった。
どうやら、正月気分を、絵でも鑑賞[2] するように静かに楽しむのではなく、落ち着きのないお祭り気分的なものに変えることが、私の気に入らなかったのかもしれない。
しかし、ここ何年か、確かに世間は静かになった気がする。正月だからといって、派手[3] に集まることもなく、海外旅行に目の色を変えることもなくなった。どうかすると、昔の、静かな正月気分を味わえるようなことがある。
同じ理由で、有名な神社へ押す[4] な押すなの初詣では、あの霜[5] の暁闇[6] の森厳[7] な気分は味わえない。やはり初詣には太古[8] の清浄[9] 感がどこかに漂って[10] いてほしい。そういう静寂[11] があるところなら、どこにでも神はいるはずである。
一時、正月になると、高度経済成長の申し子[12] みたいなのが、街頭[13] を着飾って[14] 歩いていたが、さすがにそういう姿も少なくなった。戦後30年、ようやくあるべきものがあるべき場所に戻ったのであろうか。
正月というのは、やはり、静かに明けてくるあの朝のすがすがしい気分がいい。とくに何が変わったというのではないが、もう旧年[15] のあわただしさ[16] はなく、静かな街に「何やら床し[17] 」といった気分が漂っている。昔だったら東京でも三河万歳[18] の人たちがやってくるころだ。簡素[19] に飾った正月飾りの下で、太古的な清浄感を感じながら、屠蘇[20] を飲むのも悪くない。
[1]物心③【ものごころ】
【名】
懂事,懂人情世故。(世の中の物事や人情について、おぼろげながら理解·判断できる心。)
△物心がつく。/孩子开始懂事。
△彼は物心がついたころから手が不自由だった。/他从开始懂事的时候起手就不好使了。
[2]鑑賞◎【かんしょう】
【名】【他动·三类】
欣赏;鉴赏。(芸術作品のよさを味わい楽しみ理解すること)
△映画鑑賞会/电影欣赏会。
△鑑賞力を養う/培养鉴赏力。
△クラシック音楽を鑑賞する/欣赏古典音乐。
[3]派手②【はで】
【名·形动】
(1)(穿着打扮、样式、色调等)花哨,鲜艳,艳丽,华丽。(明るい色彩であったり図柄が大きめであったりして、人目を引く様子だ。)
△派手な服装。/华丽的服装。
△彼は派手なシャツを着ている。/他穿着鲜艳的衬衣。
△身なりが派手だ。/打扮得很花哨。
△派手な色のセーターを着る。/穿着色彩艳丽的毛衣。
(2)(态度、行为等)夸张,浮华,讲阔气。
△彼女は派手好みだ。/她好讲排场〔喜欢浮华〕。
△彼は金遣いが派手だ。/他挥金如土。
△派手にけんかをする。/大吵大闹。
[4]押す◎【おす】
【他动·一类】
(1)推;挤。(手前から前方へ力を加える。)
△乳母車を押す/推婴儿车。
(2)压;按。(上から下へ力を加える。)
△ボタンを押すと、画面を遷移してください/ 如果按下按钮,请进行画面迁移。
(3)盖章;按印。(印や模様の型をものに写す。)
△スタンプを押す/盖印章。
(4)不顾。(障害や困難があるのに、強いてする。)
△反対を押す/不顾反对。
(5)压倒。(相手を圧倒する。)
△相手の気迫に押される/被对方的气势压倒。
(6)强加于人。(強引に自分の意志を通そうとする。)
△理詰めで押す/以理服人。
[5]霜◎【しも】
【名】
(1)霜.(氷点下に冷却した地面や地上の物体に、空気中の水蒸気が触れて昇華してできる氷の結晶。)
△霜が降りる。/下霜;降霜.
△霜を取る。/除霜.
△霜でいためられた花。/被霜打蔫了的花.
△電気冷蔵庫の霜。/电冰箱的霜碴儿.
(2)白发.(白髪をたとえていう語。)
△頭に霜を戴く年齢。/头发变白的年纪.
[6]暁闇◎【ぎょうあん】
【名】
破晓前的昏暗。(夜明け方のほの明るいやみ。あかつきやみ。)
[7]森厳【しんげん】
森严,庄严.
[8]太古①【たいこ】
【名】
太古,上古(指有史以前)。(非常に遠い昔。大昔。有史以前。)
△太古時代。/太古时代。
[9]清浄◎③【しょうじょう】
【名·形动】
(1)洁净,纯洁。(清らかでけがれのない·こと(さま)。)
△清浄な心。/纯洁的心。
(2)清净。 (煩悩や罪などがなく,清らかなこと。)
△六根清浄。/六根清净。
[10]漂う③【ただよう】
【自动·一类】
(1)漂,飘荡;漂流;漂浮,飘浮;笼罩。(たちこめる、浮かんでゆらゆらする。)
△風に漂う。/随风飘(荡)。
△木の葉が水面に漂う。/树叶漂浮在水面上。
△無人島に漂いつく。/漂流到一个无人岛上。
△あたりに霞が漂う。/周围笼罩着云霭。
(2)洋溢(ふんいきがあふれる);充满。(満ちている。)
△彼の詩には甘い哀愁が漂っている。/他的诗里洋溢着甜蜜的哀愁。
(3)露出。(現れる。)
△口もとに微笑が漂う。/嘴边露着微笑。
(4)徘徊。(彷徨う。)
△繁華街を漂う。/在商业街徘徊。
[11]静寂◎【せいじゃく】
【名·形动】
寂静,沉寂。没有声音。(静かなこと。ひっそりとしていること。)
△夜の静寂を破る。/打破夜的沉寂。
△あたりは静寂に包まれている。/四周一片寂静。
[12]申し子◎【もうしご】
【名】
(1)天赐的孩子。(神仏に祈ったおかげで授かった子。)
(2)天才,奇才。(神仏など霊力を持つものから生まれた子。また、その分野で特にすぐれた能力を持つ人。)
△野球の申し子。/棒球天才。
[13]街頭◎【がいとう】
【名】
街头。(町の路上。)
△街頭にくりだす。/走上街头。
△立候補者が街頭で演説する。/竞选人在街头讲演。
△街頭をさまよう。/流浪街头。
△街頭演説。/街头讲演。
△街頭デモ。/上街游行。
[14]着飾る③【きかざる】
【他动·一类】
盛装;打扮。(美しい着物を着る。盛装する。)
△けばけばしく着飾る。/打扮得花里胡哨。
△美しく着飾る。/穿上漂亮衣服。
[15]旧年①【きゅうねん】
【名】
去年。(去年。昨年。)
△旧年中はお世話になりました。/去年一年承蒙关照。
[16]慌ただしい⑤【あわただしい】
【形】
慌张,匆忙,不稳。(忙しい。せわしない。物の動きや周囲の状況が激しく変化する。)
△慌ただしい一生。/匆忙度过的一生。
△慌ただしい政局。/不稳的政局。
△いつも慌ただしい日を送っている。/总是过着匆忙的日子。
△あわただしく入ってくる。/慌慌张张地走进来。
△人びとがあわただしげに往来する。/人们忙忙碌碌地来来往往。
△あわただしげな雲行き。/不稳的形势。
△都会の生活にはなんともいえないあわただしさがある。/都市的生活有难以形容的繁忙。
[17]床しい③【ゆかしい】
【形】
(1)品格高尚,温文尔雅。(気品·情趣などがあり、どことなく心がひかれるようである。)
△床しい人柄。/高贵的品格。
(2)令人怀念,令人思慕。(なつかしく感じられる。昔がしのばれるようすである。)
(3)津津诱人,吸引人。(好奇心がそそられる。見たい、聞きたい、知りたい、欲しいなどの気持ちを表す。)
[18]みかわ‐まんざい【三河万歳】‥カハ‥
愛知県西尾市および安城市を本拠とする万歳?江戸時代に始まり?烏帽子に大紋を着た太夫と鼓打ちの才蔵とが家々を回って祝言を述べ滑稽な掛合いを演ずるもの?〈[季]新年〉
[19]簡素①【かんそ】
【名·形動】
简单朴素,简朴。简化。没有修饰,质朴。(むだがなく質素な·こと(さま)。)
△簡素な身なり。/朴素的穿着。
△結婚式を簡素に行う。/从简举行婚礼仪式;从简办喜事。
[20]屠蘇【とそ】
【名】
(1)“屠苏散”的略语。用花椒,橘皮,肉桂等调制,用以泡酒的屠苏散。(山椒、防風、桔梗、肉桂皮などを調合し、屠蘇袋に入れて酒·みかんに浸して飲む。)
(2)(加入屠苏散,新年喝的)屠苏酒。(屠蘇酒。)
△屠蘇きげん。/喝了屠苏酒的醺醺快意。