しかし、それでは、芭蕉やセザンヌが「発見」したというものは、いつたい何なのだろうか。
それがすみれの花そのもの、あるいはサント.ヴィクトワール山そのものではないことは、明らかである。それだったならば、それは「発見」の名に値しないものであったろう。芭蕉はそれまで誰も知らなかった新種[1] の草花を見つけ出したわけではないし、セザンヌは地図に載っていないような未知の山を発見したわけでもない。それどころか、サント?ヴィクトワール山は、昔からプロヴァンス[2] 地方の人々にとっては、毎日見慣れている極めて親しい山であったはずだし、おそらくは逢坂山[3] を越える山道のどこか道端にひっそりと咲いていたすみれ草を見つけたのも、決して芭蕉が最初ではなかったはずである。
それでは彼らは、花や山そのものではなく、花や山に内在[4] していながら、それまで誰も気がつかなかった何か特殊[5] な性質、ないしは価値を見つけ出したと言うべきであろうか。そして、その特殊な性質、ないしは価値が、美しさと呼ばれるものと考えてよいのであろうか。
もしそうだとすれば、「美しさ」というのは、すみれ草や山から発するいわば放射能[6] のようなもので、優れた詩人や画家がそれに気づくまでは人々から隠されているが、いったん芸術家がそれを「発見」すれば、人々の眼にも明らかなものとなり、芸術家はそのエッセンス[7] を凝縮して作品の中に定着[8] させることによって、いっそうはっきりとその姿を人々に提示[9] するのだということになる。
[1]新種◎①【しんしゅ】
【名】
新品种。(今までにない、新しい種類。新たに発見された生物の種。国際命名規約に定める必要条件を満たす方式によって記載·公表され、新種であると判定が下されれば学名が有効となる。また、新たに作出された品種。)
△新種保険。/新种类保险。
[2]プロヴァンス③【ぷろヴぁんす】
【名】【英】Provence
普罗旺斯。(フランス南東部、ローヌ川下流東部の地中海に面する地方。前2世紀、ローマ帝国最初の属州(プロウィンキア)となった。マルセイユ·カンヌ·ニースなどの都市·保養地がある。)
△プロヴァンスへ旅行した。/去普罗旺斯旅行。
[3]おうさか【逢坂】アフ‥
大津市南部にある?東海道の坂?北西に逢坂山がある?(歌枕)
[4]内在③【ないざい】
【名】【自动·三类】
内在,固有,存在于内部。( あるものが、そのものの中におのずから存在すること。)
△内在因。/内在原因。
[5]特殊◎①【とくしゅ】
【名·形動】
特殊,不一般,与众不同。(普通と異なること。)
△特殊な目的。/特殊的目的。
△これは特殊な場合だ。/这是特殊情况〔场合〕。
△特殊鋼。/特种钢。
[6]放射能③【ほうしゃのう】
【名】
放射能。(放射性物質が放射線を出す現象または性質。)
△放射能による汚染。/放射性污染。
△放射能を浴びる。/受到放射线辐射。
△放射能灰。/放射性微粒。
△放射能塵。/放射性尘埃'。
△自然放射能。/天然放射能。
△人工放射能。/人工放射能。
△放射能系列。/放射系。
[7]エッセンス①【エッセンス】
【名】【英】essence
(1)本质,精华,真髓。(本質的なもの。)
(2)精,香精。(植物から抽出した香気の高い精油。)
△バナナのエッセンス。/香蕉精。
△バニラ·エッセンス。/香草精。
[8]定着◎【ていちゃく】
【名·自他动·三类】
(1)固着,附着,定居。场所或地位稳定下来。固定,扎根。新的文化现象,学说等得到社会的承认。(ある場所·地位などに落ち着くこと。新しい文化現象·学説などが社会的に認められること。)
△日本語として定着した外来語。/在日语中已经固定的外来语。
△若年労働者の定着が悪い職場。/青年工人呆不长的单位。
△漂流民が小島に定着する。/漂流在海上的人到小岛定居。
△新しい風習がこの国に定着した。/新的风尚在这个国家扎了根。
△週休2日制が定着する。/固定实行双休日制。
(2)定影,照相中用药品处理已显影的胶片,印相纸以使其不再感光。(写真で、現象したフイルム·印画紙が再び感光しないように薬品で処理すること。)
△定着液。/定影剂〔液〕。
[9]提示①◎【ていじ】
【名】【他动·三类】
出示,提出(その場に持ち出して,人にわからせること)。
△証拠を提示する/出示证据。
△門衛に身分証明書を提示して中へ入る/出示身分证给守卫看后进门。
△条件を提示する/提条件。