飛行機は去ったが、陽はなお、草はるかな西方[1] の野に残っている。幸い風が強く雲が時間とともに吹き払われ[2] っつあるようで、地には小さな例の春草[3] が、花をつけた首を風の中で小きざみに振っている。何億という数の草が、揺れているのである。
(ひょっとすると、今夜は宝石箱のような星空[4] が見られるかもしれない。)と、遠ざかってゆく機影[5] を見ながら、期待を持った。この星空への期待は出発前から楽しみにしたもので、あるいは子供のころからのものかもしれない。
私は、自分の包に近づいた。
包は羊毛[6] の、真っ白なフェルト[7] である。手で触れると、分厚[8] くて柔らかくて、皮膚にほどよい抵抗感が感じられる程度の硬さがある。
「我々モンゴル人は、包の暮らしを最も好んでいる。」
という言葉を、ウランバートル[9] で何度も聞いた。鉄筋[10] 住宅に住む労働者も草原の包の暮らしを恋しがるし、政府の高官[11] なども夏の休暇には家族ぐるみ[12] で遠い草原へ行き、包で暮らすという。元来、固有[13] 文化を守ることにっいて頑質[14] な民族なのだが、この包の外皮[15] のフェルト感触の柔らかさに触れてみると、なるほど石や木の硬い材料の建築など、感覚的にやりきれないという気分は当然かもしれないと思った。
包を膨らませて[16] いるものは、本来、ヤナギ[17] の枝の骨組みである。細い棒の組み合わせの場合もある。私にあてがわれた[18] 包は、それであった。カラカサ[19] のように柄[20] があり、その柄が中央[21] を支える唯一の柱として地面に据えられる[22] 。その柄の先に傘の骨のように数多くの放射状[23] の棒が出ていて、フェルトはその上に、ドーム[24] 状にかぶせられるのである。フェルトは、風ではがされない[25] ように麻の細引き[26] で縛られている。その縛られている感じが、中国人から見ればいかにも包という実感なのであろう。
入り口は、茶室[27] のニジリ口[28] のようにかがんで[29] 入れる程度のもので、木製の観音扉がっいている。この扉の感じも、恐らく上古以来、少なくとも中世[30] この方変わっていない。
[1]西方◎【さいほう】
【名】
(1)西方。(西の方角。)
△西方に進む。/向着西方前进。
(2)西方净土,西天。(「西方浄土」の略。)
[2]吹き払う④◎【ふきはらう】
【他动·一类】
(1)吹散,刮跑,吹去。(風が吹いて物を払いのける。)
△雲を吹き払う。/把云吹散。
△ちりをふっと吹き払う。/噗地一口吹掉灰尘。
(2)消失,消除。(吹いて物を払いのける。)
△不安を吹き払う。/消除了不安。
[3]春草◎【しゅんそう】
【名】
春草。(春に芽を出す草。春の草。)
[4]星空◎③【ほしぞら】
【名】
星空,星光闪耀的天空。(晴れて星がたくさん輝いている空·)
△星空はとてもきれいですね。/星空非常的美呢。
[5]機影【きえい】
(飞机的)机影
[6]羊毛◎【ようもう】
【名】
羊毛。从绵羊、山羊身上剪下的毛。(ヒツジ·ヤギから刈り取った毛。)
△炭化羊毛。/碳化羊毛;去杂羊毛。
△上質の羊毛。/优质羊毛。
△羊毛を刈る。/剪羊毛。
[7]フェルト◎【フェルト】
【名】【英】felt
毡,毛毡。利用毛的互相缠绕性质,使羊毛等缩绒固定而成。(毛のからみあう性質を利用して、羊毛などの毛を縮絨させて固めたもの。)
△フェルトのカーペット。/毡毯。
△フェルトのスリッパ。/毡拖鞋。
△フェルト帽。/毡帽。
△フェルト製品。/毛毡制品。
[8]分厚◎【ぶあつ】
【名】【形動】
厚;较厚
[9]ウランバートル【ウランバートル】
〈地〉乌兰巴托W.(蒙古首都)乌兰巴托
[10]鉄筋◎【てっきん】
【名】
(1)钢筋。埋进混凝土里用来增强拉力的铁棍。(コンクリートに埋め込んで、その引張力に対する弱さを補強するために用いる鉄棒。)
△ 鉄筋工。/钢筋加工组装的工人。
(2)钢筋水泥。“钢筋混凝土”的略语。(·鉄筋コンクリート·の略。)
△ この橋は鉄筋で建てられた。/这座桥是用钢筋混凝土筑成的。
[11]高官◎【こうかん】
【名】
高级官员,高级干部。(地位の高い官。また、その官にある人。)
△高位高官。/高位高官。
[12]ぐるみ【ぐるみ】
【结尾】
连;带;包括在内,全都(名詞に付いて,その物を含めて全部の意を表す。ぐるめ)。
△身ぐるみ脱いで置いて行け。/把衣服全都脱下来留下!
△家を土地ぐるみ4千万円で売る。/房子连地皮在内卖四千万日元。
[13]固有◎【こゆう】
【名·形動】
(1)固有。本来就有的。〔本来備わっていること。〕
△各人に固有の性質。/各人固有的秉性。
(2)特有。仅某事物具有。天生即有。〔その物だけが持っているさま。特有。〕
△これはこの花に固有の香りだ。/这是这种花所特有的香气。
△酸化しないのは金の固有の性質だ。/不氧化是金子的特性。
△本能は動物固有のものだ。/本能是动物生来就有的。
[14]がんしつ【頑質】. かたくなな気質。
[15]外皮【がいひ】
外皮
[16]膨らます◎④【ふくらます】
【他动·一类】
使鼓起来。(ふくらむようにする。ふくらす。ふくらせる。ふくらめる。)
△風船を膨らます。/吹气球。
[17]柳◎【やなぎ】
【名】
柳,柳树。(ヤナギ科ヤナギ属の落葉樹の総称。)
△柳の糸。/柳丝。
△柳が風になびいている。/柳树随风摇曳。
△人のいうことを柳に風と受け流す。/把人家的话当耳边风。
[18]宛てがう③【あてがう】
【他五】
(1)〔当てる〕贴〔靠〕在……上shang.
(2)〔わりあてる〕分配;选配.
(3)〔与える〕给.
[19]唐傘【からかさ】
油纸伞,雨伞.油纸伞,雨伞
[20]柄◎【え】
【名】
柄,手把(手で握りやすいように、道具類につけた棒状の部分。取っ手)。
△かさの柄/伞柄。
△おのの柄/斧把儿。
△柄をすげる/安把儿。
△柄のないところに柄をすげる/鸡蛋里找骨头;无理狡三分。
[21]中央◎【ちゅうおう】
【名】
(1)中间(まんなか);当中。(の中。)
△町の中央にある病院。/市镇当中的医院。
△部屋の中央にテーブルを据える。/把桌子放在屋子当中。
△中央ヨーロッパ。/中欧Z。
(2)中心,中枢。(センター。)
△市の中央をなす繁華街。/形成市中心的繁华街。
△船の中央部。/船的中枢部。
(3)中央;首都。(首府·政府。)
△中央から遠く離れる。/远离首都的地方。
△中央の指示にしたがう。/听从中央的指示。
△中央ステーション。/总站。
△中央政府。/中央政府。
△中央郵便局。/中央邮局;邮政总局。
△中央分離帯。/上下行车道分界处。
[22]据える◎【すえる】
【他动·二类】
(1)安设;放,安放,放置。(物を置く)
△電気スタンドを机の上に据える。/把台灯(安)放在桌子上。
△この工場にはいろいろな機械が据えられている。/这个工厂里安装着各种机器。
(2)摆列。(並べる)
△膳を据える。/摆饭。
(3)让(人)坐在……的上面(位置)。(座に)
△客を上座に据える。/让客人坐在上座。
(4)使就……职位。(人を重要な地位などにつかせる)
△彼を会社の社長に据える。/让他当公司的总经理。
(5)沉着(不动)。(目、腰を動かさないでそこにとどめる)
△目を据えて見る。/凝视;注视;直盯着。
△この問題は腰を据えて考えなければならない。/这个问题必须坐下来(沉下心来)好好考虑。
△腹に据えかねる。/忍耐不住。
(6)灸治。(灸をする)
△灸を据える。/灸治。
△腹部に2回灸を据えた。/腹部灸了两次。
[23]放射状【ほうしゃじょう】
放射状
△道路が放射状に伸びる
[24]ドーム①【ドーム】
【名】【英】dome
〈建〉半圆形屋顶。(円屋根。丸天井)
△ドーム球場/圆屋顶球场。
[25]剥がす②【はがす】
【他动·一类】
剥下。揭下。(表面に張りついていた物や、本体をおおっていた物を、力を加えて取り除く。)
△化けの皮を剥がす。/剥掉画皮。
△郵便切手を剥がす。/揭下邮票。
△張り紙を剥がす。/把招贴揭下来。
△生爪を剥がす。/揭掉指甲盖儿。
△春巻の皮を剥がす。/剥春卷皮。
[26]細引き [U]
ほそびき
[0]〔細引き〕〈名〉
あさで作った?細いなわ/用麻搓的细绳?细麻绳?
△~で荷物をしばる/用细麻绳捆行李?
[27]茶室【ちゃしつ】
茶室,举行茶会的屋子.·さどう(茶道)茶室づくり 茶室样的小房.【名】
茶室;举行茶会的屋子
[28]にじり口③【にじりぐち】
【名】
〈茶道〉茶室设的蹭着出入的小门。(草庵茶室における客の出入り口。ふつう、高さ2尺2寸(約66センチ)、幅2尺1寸(約63センチ)くらい。にじるようにして入るのでこの名がある。にじりあがり。)
[29]屈む◎【かがむ】
【自动·一类】
(1)弯下腰去。(腰をまげて。)
△腰の屈んだおばあさん。/弯了腰的老婆婆。
△屈んで歩く。/弯着腰走路。
△屈んで花を摘む。/弯下腰去掐花。
(2)蹲(下)。(ひざをまげて。)
△うしろの人が見えませんから前の人は屈んでください。/后边的人看不见,请前面的人蹲下。
△へやのすみに屈む。/蹲在屋子旮旯儿。
[30]中世①【ちゅうせい】
【名】
中世纪;(古代和近代之间的)中世(在日本指镰仓,室町时代)。(歴史の時代区分で古代と近世との間の時代。)
△中世紀。/中世纪。