なるほど、そっちもそうなのか。いやね、朝起きてから、身辺のようすが、どうもいろいろとおかしいんで、君に電話してみたというわけさ。電話を呼び出し音もへんだったな、いやいや鳴ってるようだった。そっちもそうなのかい。これで、自分の頭が狂った[1] のじゃないことがはっきりした。しかし、だからといって、安心したものかどうか、ますます分からなくなってきた。どうして、こんなことになったのだろう」
「こっちだってわからんさ」男は答えた、お互い持っているのは不審感と疑問ばかり。与えようにも回答や説明材料は何もないのだ。電話は一応終わった。
男は考えをまとめようと、タバコを銜えた[2] 。しかし、ライターの火花は燃え尽きる寸前の線香のようによわく、なかなか点火[3] しなかった。やっとともった炎[4] も、よわよわしく小さく、頼りなかった。タバコの味も、どこか気が抜け[5] 、おいしくなかった。
「きょうは、なにもかもだめときやがる[6] 。しょうがないな。ひとつ、コーヒーでも沸かして[7] 飲むとするか……」
それに取り掛かったが、ガスの炎もまた、息も絶え絶え[8] のという感じだった。蛍[9] のひかりと大差[10] ないみたいだ。この調子だと、時間がかかりそうだな。それに、なんとか乾いたとしても、コーヒーがいつものような味と香りを示してくれるかどうか……それを待つ間にと、おとこは新聞をとってきた。紙面はぼやけている。印刷インキが水で薄められた[11] かのかのように、字がかすれていた。紙も黄色っぼく、かさかさしており、どことなく老人の皮膚を連想[12] させた。あまり読みにくいので、男は諦め、それをくずかごに捨てた。
男は窓のほうへ歩く。スリッパ[13] の糸が切れた[14] のか、ぱっくり[15] 口を開けた。彼は脱ぎ捨てる[16] 。窓の外を見ると、そこの光景はきのうとずいぶん違った。
[1]狂う②【くるう】
【自動】
(1)发狂,发疯,疯狂。(精神状態が異常になる。)
△気が狂う/发疯。
△頭が狂う/发疯。
△狂ったように笑いだす/狂笑起来;好象发疯了似的大笑起来。
△敵の狂ったような猛反撃/敌人的猖狂反攻。
(2)沉溺,迷于。(物事に異常に熱中する。)
△女に狂う/迷于女色。
(3)失常,有毛病。(物事の状態や機械の機能などが正常でなくなる。)
△機械が狂っている/机器出了毛病。
△この時計は狂っている/这个表不准。
△あの男はちょっと調子が狂っている/那个男人有点失常。
(4)不准确,错误.。〔まちがう〕
△順序が狂う/次序乱了。
△手元が狂う/失手。
△君の歌は調子が狂っている/你唱得走调了。
(5)(预定等)打乱,弄乱。(見込みが外れる。)
△計画が狂う/计划打乱了。
△見込みが狂う/预想落空了。
[2]銜える◎③【くわえる】
【他·二类】
叼,衔。夹在齿或唇之间。(歯や唇にはさんで支える。)
△指をくわえる。/嘬手指;吃手(比喻眼馋,垂涎)。
[3]点火◎【てんか】
【名】【自サ】
点火,点燃。(火をつけること。)
△花火に点火する。/放花炮。
△点火器。/点火器。
△点火紙。/(点火用的)纸捻儿。
△点火装置。/火花塞;电花插头。
△爆発点火装置。/炸药点火装置。
△点火コイル。/点火线圈。
△点火栓。/火花塞。
[4]炎①②【ほのお】
【名】
(1)火焰。燃烧的火。(気体が燃焼して熱および光を発する物。)
△ろうそくの炎。/烛光。
△ガスの炎。/煤气的火苗。
△炎が出る。/冒火苗。
△炎に包まれる。/被包在火焰中。
△炎の海と化す。/变成一片火海。
△炎が天井をなめる。/火舌蔓延到天花板上。
(2)怒火。(恋慕·怨恨·憤怒·嫉妬の情で心のいらだつのを火の燃え立つのにたとえて言う語。)
△怒りの炎。/怒火。
△しっとの炎を燃やす。/燃起忌妒的火焰。
[5]気が抜ける【きがぬける】
【惯用语】
(1)愣神。(とぼける。)
(2)没了干劲。(気持ちの張りがなくなる。)
△試験が終わって気が抜ける。/考试结束后,一下子没了干劲。
(3)汽水跑味了。(飲み物などの風味がなくなる。)
[6]やがる②【やがる】
【补助动词】
干某事((活用は五段型) 動詞型活用の語の連用形に付け、相手や他人の動作をぞんざいに言ったり、ののしりいやしめたりする意に用いる)。
△何をしやがるんだ。/你想干什么!
△寝てばかりいやがる。/(他)光躺着(什么也不干)。
[7]沸かす◎【わかす】
【他·一类】
(1)烧开,烧热。(熱を加えて水などを熱くする。また、煮えたたせる。)
△ミルクを沸かす。/煮牛奶
△お茶を沸かす。/煮茶;烹茶。
△ふろを沸かす。/烧洗澡水。
(2)使沸腾,使狂热。使兴高采烈。(熱狂させる。夢中にさせる。)
△青年の血を沸かす。/使青年的热血沸腾。
△観衆を沸かす。/使观众情绪高涨。
[8]絶え絶え◎③【たえだえ】
【形动】
逐渐微弱;越来越少。越来越小。(かろうじてつづいているが、いまにもだめになりそうだ。また、とぎれとぎれに。)
△息も絶え絶えな様子。/奄奄一息。
△笑い声が絶え絶えに聞こえる。/断断续续听到笑声。
[9]蛍①【ほたる】
【名】
萤,萤火虫。(ホタル科の甲虫の総称。体長5~20mmほど。体色は黒·赤·黄などが組み合わさる。日本には20数種が知られ、約10種は腹部が発光·明滅する。幼虫は清流にすみ、6月頃羽化する。くさのむし。なつむし。)
△小川のほとりに無数の蛍が光っていた。/小河边上,数不清的萤火虫在闪光。
△蛍が消えた。/萤火虫不见了。
△蛍の光。/萤光(曲)。
△蛍合戦。/许多萤火虫乱飞。
[10]大差①【たいさ】
【名】
显著的不同,很大的差别。(大きな差。大きな違い。 )
△予想に反して大差で優勝した。/出乎意料地取得压倒的胜利。
△これならどれでも大差ない。/这样的话,哪个也没有太大的不同。
[11]薄める◎③【うすめる】
【他动·二类】
弄稀薄;稀释;弄淡。(他のものを加えて濃度を下げる。濃さを減らす。薄くする。)
△味を薄める。/把味道弄淡。
△水で薄める。/掺水稀释。
[12]連想◎【れんそう】
【名·他动·三类】
联想。随着某个观念,头脑中浮现出与其相关联的其他观念,亦指该观念。(ある観念につれて、それと関連のあるほかの観念が頭に浮かぶこと。)
△雲を見て羊を連想する。/看见云彩联想起绵羊来。
△アインシュタインというと相対性原理を連想する。/一提起爱因斯坦就联想到相对性原理。
△連想ゲーム。/联想游戏。
[13]スリッパ①②【スリッパ】
【名】【英】slipper
拖鞋。(足を滑り込ませてはく室内ばき。)
△プラスチック製スリッパ。/塑料拖鞋。
[14]切れる②【きれる】
【自动·二类】
(1)能切,锐利,快。(切れ味が鋭い。)
△よく切れる刀。/锋利的刀;快刀。
△手の切れるような札。/崭新的钞票。
(2)断,断开;中断,间断,出现缝隙。(分かれる·とぎれる。)
△縄が切れた。/绳子断了。
△電球が切れた。/灯泡(的钨丝)断了。
△雲が切れてきた。/云彩开缝了。
△電話が切れた。/电话中断了。
△連絡が切れた。/联系中断了。
(3)磨断,磨破,开绽。(すりきれる。)
△着物のすそが切れる。/衣服大襟磨破。
(4)砍开,砍伤;划破,划伤。(傷つく。)
△石で手が切れた。/石头把手划破了。
△ひびが切れる。/发生皲裂;手皴了。
(5)(堤)溃,决口。(決壊する。)
△出水でせきが切れた。/因为涨水堰堤决口了。
(6)罄尽,用尽;卖光,脱销。(尽きる。)
△ガソリンが切れている。/汽油没有了。
(7)期满,到期。期限到了,失去效力。(限りが来る。効力がなくなる。)
△期限が切れる。/到期了。
[15]ぱっくり③【ぱっくり】
【副】
张开,裂开。([ぱくり]の促音添加。口を大きくあけるさま。大きな口をあけて物を食べるさま。割れ目や傷口などが大きくあくさま。ぱっくり。)
△傷口がぱっくりと開く。/伤口裂开。
[16]脱ぎ捨てる④◎【ぬぎすてる】
【他动·二类】
(1)脱下丢开。(衣服や履物などを脱いでそのままにしておく。)
(2)摆脱。(古い考え方や習慣などを捨て去る。)
△旧弊を脱ぎ捨てる。/摆脱旧弊。