それを聞き、男はうなずく、ビールスのせいなんかじゃないだろうな。生物ばかりでなく、これは物品[1] や無機物[2] にも及んでいる。
「いったい、どうしたんだ…」男はテレビを叩いて叫ぶ、それに応じるかのように、アナウンサーの声が言った。
<どうしたのかとの問い合わせが、各官庁[3] に、またテレビ局にも殺到[4] しております。今までに分かった、それに対する、こうではないかとの仮説[5] 。いや、これ以外に説明しようがない考え方はこうです。この現象に共通している印象は、疲労といえましょう。森羅万象[6] 、世のすぺての自然や物品が疲れ果てたのだということです。あまりに長い長い間、人間たちに使われ、人間たちに奉仕[7] し続けてきた。今日にいたって、その疲れが一度に出た。もはや存在することにも疲れのでしょう、さいわいなことに、人間だけは健在です。しかし、それ以外のすぺては、人間による酷使に耐えかね、老衰[8] という状態になってしまったと称す[9] べきで…>
テレビの音声は、息ぎれしたように小さくなった。男は大きくうなずく。「そうなのか。そう言われると、そんな風にも思えるなあ。分かるよ。自然界の持っていた精気を、何もかも人間が吸い尽くしてしまい、こうなったというわけか…」
そして、男は周りの物品に呼びかける。
「たのむよ、元気を出してくれ……」しかし、何の答えもない。老衰が一段と進んだような静かさ。その中で、ベッドの脚が、もう力を使い切ったように折れた。続いて、机の脚も...
[1]物品◎【ぶっぴん】
【名】
物品。(物。)
△ 会社の物品。/公司的物品。
[2]無機物【むきぶつ】
无机物.【名】
(化学)无机物
[3]官庁①【かんちょう】
【名】
(1)政府机关,官厅。与辅助机关、咨询机关相对而言,指对国家事务有权决定、表示国家意志的国家机关。(国家の事務について、国家の意思を決定し表示する権限をもつ国家機関。補助機関·諮問機関などに対比していう。担当する事務によって、司法官庁·行政官庁、管轄する区域によって中央官庁·地方官庁に分けられる。また、官吏の数によって独任制のものと合議制のものとがある。)
△中央官庁。/中央机关。
(2)官厅,官署,政府机关。一般泛指国家各机关。
△官庁の役人。/机关工作人员。
[4]殺到◎【さっとう】
【名】【自动·三类】
纷纷来到,蜂拥而至,涌向,涌来(多数の人や物が一度にどっと押し寄せること)。
△電報が殺到する/电报雪片似地飞来。
△苦情の電話が殺到する/诉苦的电话纷纷打来。
△志願者が殺到する/报名者蜂拥而至〔来〕。
△展覧会には朝から入場者が殺到した/参观的人一清早就涌向展览会来。
[5]仮説◎【かせつ】
【名·他动·三类】
假设,假说。(ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説。実験·観察などによる検証を通じて、事実と合致すれば定説となる。)
△仮説を立てる。/假定,立假说。
△中間子の理論の仮説をたてる。/设介子理论的假说。
△海岸に救護所を仮説する。/假定海岸上有救护所。
[6]森羅万象④【しんらばんしょう】
【名】
森罗万象,万物,宇宙。(宇宙に存在する一切のもの。あらゆる事物·現象。しんらまんぞう。)
[7]奉仕①◎【ほうし】
【名·自动·三类】
(1)(不计报酬而)服务,效劳,效力。(献身的に尽くすこと。)
△勤労奉仕。/义务劳动。
△社会奉仕活動。/为社会服务活动。
△国家に奉仕する。/为国效劳。
△奉仕事業。/公共福利事业。
(2)(商人)廉价售货。(商品を安く売ること。)
△奉仕品。/廉价品。
△奉仕値段。/廉价。
[8]老衰◎【ろうすい】
【名】【自サ】
衰老。(年をとって心身が衰えること。)
△彼は目に見えて老衰してきた。/他明显地衰老起来。
[9]称す◎【しょうす】
【他サ】
(1)称,名字叫……。(名のる。)
△鈴木と称する人。/一个叫铃木的人。
(2)假称,伪称,冒充。(いつわる。)
△病気と称する。/称病;撒谎说有病。
(3)称赞。(ほめる。)
△名人と称される。/被称赞为名手。