やがて、誰の目にも明らかに新緑は稜線[1] を染めながら登り、全山[2] を緑で覆っていく[3] 。そのころには林内の根雪もほとんど消えて、つつじ[4] 類をはじめ、低木[5] 類が林床[6] を飾るのである。しかし、いつもながらの春の訪れとは言いながら、どうしてこうも順序[7] を間違えず、次から次へと植物たちは動き出すのであろうか。その移り変りは、恰も生き物たちの成長の姿そのもののようである。幼年期から少年期へ、更に青年へと成長していくように、森林全体もまた時節[8] とともに変化を遂げていく。天の摂理[9] とは、まさにこのようなことを言うのではなかろうか。
夏から秋にかけては実り[10] と収穫[11] の時節である。最も収穫というのは人間をはじめ動物側のことだから、植物にとって最も生命感にあふれる時期こそが夏のだといったもうがいいかもしれない。林業[12] にとってはやっかいな真夏[13] の下刈り[14] という作業[15] も、雑草[16] や小低木かれ見れば、とんでもない迷惑なことである。ここには人それぞれの自然がある。自然保護と林業振興との、いずれの立場が優れているというのでもない。ひとはそれぞれの立場で自然に接するのだということを、我々は心の底で認め合いながら生きでいるのである。
いかなる存在にも凋落[17] の時が来ることを、自然はその長い年月の移ろいの中でも?また一年という短い間にも示してくる。やがてブナの葉は落ち着くし、樹木全体が冬に備えた[18] 厳しい表情に変っていく。その厳か[19] なたたずまい[20] といい、また風雪[21] に耐えるけなげ[22] な姿といい、ブナ林が真の迫力を見せるのに、冬に勝る季節はないであろう。或る[23] 人はその姿をおそろしいというかもしれない。またある人はそれこそ美の極致[24] と評価するかもしれない。評価はどうあれ、黒々と静まり返った[25] 冬のブナ林の中では、もう既に何かが動き始めている。巡り来る春に、再び山をおおいつくす葉が、早くも必要な枚数[26] だ冬芽[27] の中に準備されているのである。ここでもまた、わたしたちは自然の偉大[28] さに驚かずにはいられない。自然の中に身を置いてみて、人間は初めて自然の大きさにふれることができるのである。同時に、大自然の一員として、その中に包み込まれた[29] 自分をも認識できるであろう。
ブナ林という自然界の片隅[30] のしかもその移り変りの一断面[31] をのぞいてみただけでも、自然は、いかに多彩[32] で奥行きが深いものであるかを知ることができる。その奥深さが実感できるのは、そこに人間がかかわっているからにほかならない。確かに日本人は自然に極めて強い愛着[33] を抱いている。また自然に対して研ぎ澄まされた[34] 感性[35] を持っているの事実である。それは日本文化のさまざまな領域にも反映されていよう。しかし、それはあくまでも抽象的な?観念的な自然でしかないのではなかろうか。わたしたちはもっと現実の自然との一体感を取り戻さなければならない。自然を人間から切り離して眺めるのではなく、むしろ自然を友とし、自然のこころに迫ることが大切なのである。
[1]稜線◎【りょうせん】
【名】
山脊(的棱线)。(山の峰から峰へ続く線。尾根。)
△くっきりした稜線。/棱角清晰的山脊。
[2]全山①【ぜんざん】
【名】
(1)所有的山。某地域的所有的山。(ある地域のすべての山。)
(2)满山、全山。某座山的整体。(ある山全体。)
(3)某寺的整体。(ある寺全体。)
[3]青年期
[4]つつじ
〈植〉杜鹃dùjuān,映山红yìngshānhóng.
【補足】“杜鹃"には?ホトトギス?の意味もある.
[5]低木◎【ていぼく】
【名】
矮树,灌木。(低い木。ふつう高さ約2メートル以下の樹木。主幹がはっきりせず、根ぎわから数本に分かれて出るものが多い。灌木。)
△常緑低木。/常绿灌木。
△低木林地。/灌木林地。
△低木帯。/灌木带。
[6]りん‐しょう【林床】‥シヤウ
森林の樹下の環境?森林の種類や林相の違いで草や低木?小動物?菌類などが独特の生態系を構成する?
[7]順序①【じゅんじょ】
【名】
(1)顺序。(一定の基準による並び方。)
△順序よく並べる。/按顺序摆好。
△入場の順序をきめる。/决定进场的先后顺序。
△指名の順序で。/按提名的顺序。
△順序が乱れている。/顺序乱了。
△順序が逆になる。/次序颠倒。
△年齢の順序にすわる。/按长幼顺序就座;序齿入座。
△順序だっている。/有条有理。
△順序だてて研究する。/有系统地进行研究。
△順序を乱す。/弄错次序。
△番組の順序をかえる。/变换节目的次序。
(2)步骤。(決まった手順。)
△順序を踏んで請願する。/办理手续后请愿。
△何事をするにも順序がある。/无论做什么事有一个过程。
△そんなことをわたしに訴えるのは順序が違う。/那类事情向我来发牢骚是不对头的。
[8]時節【じせつ】
【名】
(1)时节,季节,时令,节气。(自然の移り変わりによって感じられる時分。季節。)
△ 散策に適した時節。/适合散步的时令。
(2)时世,时代。时务,世道。(その時の世の中の情勢。時勢。)
△時節をわきまえよ。/要识时务。
(3)时机,机会。(何かをするのに よい時機。機会。)
△時節を待つ。/等待时机。
[9]摂理①【せつり】
【名】
天理,天命。(最終的に人を善へ導く、神の意志。)
△神の摂理。/天理。
[10]実り◎【みのり】
【名】
(1)结实,成熟,收成。(植物の実がなること。実を結ぶこと。収穫。)
△実り豊かな秋。/丰收的秋天。
△実りが遅い。/成熟得晚。
△秋の実り。/秋天的丰收。
(2)成果,,成效。(物事の成果があがること。)
△実りある成果。/丰硕的成果。
△会議は実り多いものであった。/会议有了很多成果。
[11]収穫◎【しゅうかく】
【名·他动·三类】
(1)收,收获(取り入れ);收割。(刈り取り。)
△大豆を収穫する。/收大豆。
△1年に2度の収穫がある。/一年收获两次。
△ことしの米の収穫は平年作を上回る見こみ。/今年水稻的收获估计将超出普通年成。
△収穫物。/收获物。
△収穫高。/收获量。
(2)〔成果〕收获,成果。
△旅行の収穫。/旅行的收获。
△大いに収穫があった。/有很大的收获;收获很大。
△どうだい,なにか収穫があったかい。/怎么样,有什么收获吗?
[12]林業①【りんぎょう】
【名】
林业。(土地に林木を仕立てて育成し、これを経済的に利用することを目的とする生産業。)
△林業基本法。/林业基本法。
△林業経済学。/林业经济学。
[13]真夏◎【まなつ】
【名】
盛夏,仲夏。夏天最热的时候。(夏の盛り。)
[14]下刈り◎【したがり】
【名】
割去树下的草。(植林した苗木の生長をよくするため、樹木の下の雑草や雑木を刈り取ること。)
△下刈り軽減の方法はいくつかあります。/有几个办法,可以减少割去树下杂草工作量。
[15]作業①【さぎょう】
【名·自动·三类】
工作;操作,作业;劳动。((技術·機械の)仕事。また、仕事をすること。特に、一定の目的と計画のもとに、身体または知能を使ってする仕事。)
△作業の段取り。/生产工序;操作程序。
△作業の能率をあげる。/提高工作效率。
△荷役作業。/装卸工作。
△作業服/工作服;劳动服。
△作業員。/操作人员;作业人员。
△作業場。/车间;作坊;工作现场;工地,工段,施工区间。
△作業教育。/作业教育;劳作教育。
[16]雑草◎【ざっそう】
【名】
杂草。(人間が栽培する作物や草花以外のいろいろの草。)
△庭には雑草がいっぱい生えている。/院中杂草丛生。
△雑草を根こそぎとる。/把杂草连根拔掉。
△雑草のような旺盛な生活力をもっている。/具有杂草般的顽强的生命力。
[17]凋落◎【ちょうらく】
【名】【自动·三类】
(1)凋落,凋谢,凋零。(花や葉がしぼんで落ちること。)
(2)衰败,没落,衰亡。(おちぶれること。落魄。)
△凋落の一途をたどる。/日趋衰落;走向衰落。
[18]備える【そなえる】
【他动·二类】
(1)〔用意する〕准备,防备。(物事に対する必要な準備をととのえる。用意する。)
△外敵に備える。/防备外敌。
△老後に備える。/预先准备〔安排〕好晚年生活。
(2)〔設置する〕设置,备置,装置。(物を不足なくそろえておく。設備として持つ。)
△教室にはテープ·レコーダーが2台備えてある。/教室里备有两台录音机。
(3)〔有する〕具备,具有。生与俱来。生来就有。(欠ける所なく身につける。自身のものとして保持している。)
△彼はいろいろりっぱな資格を備えている。/他具备种种优越的条件。
△文才を備えている。/天生有文才。
[19]厳か②【おごそか】
【形动】
庄严,严肃,肃穆,庄重,郑重。威严。(いかめしく、近づきにくいさま。威厳があるさま。)
△厳かな態度。/严肃的态度。
△厳かな儀式。/庄严的仪式。
△厳かに宣言する。/郑重宣布。
△追悼会は昨日厳かに行われた。/追悼会昨天在十分庄严的气氛中举行。
[20]佇い◎【たたずまい】
【名】
(1)存在状态,氛围。(立っているようす。また、そのものからかもし出されている雰囲気。)
△庭園の落ちついた佇い。/庭院宁静的氛围。
(2)生计,生活。(人の生き方、暮し方。また、生業。たたずみ。)
[21]風雪◎【ふうせつ】
【名】
(1)风和雪。(風と雪。)
△この塔は500年の風雪に耐えてきた。/这座塔经历了500年的风雪。
(2)暴风雪。(強い風を伴って降る雪。吹雪。)
△船は激しい風雪の中で難航した。/船只在激烈的暴风雪中艰难前行。
(3)风霜,艰苦。(きびしい苦難や試練。)
△人生の風雪に耐えて来た人。/饱受人生苦难的人。
[22]健気◎①【けなげ】
【形动】
(1)坚强,勇敢,奋不顾身。〔かいがいしい。年少ながら、心がけや態度がしっかりしているさま。〕
△健気な決心。/坚强的决心。
△溺れる子どもを救おうと、健気にも彼は急流に飛び込んだ。/为了抢救溺水的孩子,他竟奋不顾身地跳进了急流。
(2)值得赞扬,可嘉;(超过年龄、体力的)大无畏精神。〔称賛すべき。〕
△年に似合わず健気なふるまいだ。/这样年轻如此勇敢,值得赞扬。
△女ながらも健気なふるまいであった。/虽是女人,却做出值得赞许的勇敢行为。
[23]或る①【ある】
【连体】
某;有。(事物·人·時·場所などを漠然とさしていう語。また,それらをはっきりさせずにいう時にも用いる。)
△或る人。/某人;有人;有的人; [二人以上]有些人。
△或る時。/有时候; 有一次。
△或る所。/某地;有个地方; 有的地方。
[24]極致①【きょくち】
【名】
极致,绝顶。(力をつくして最終的に到達するところ。この上ないおもむき。)
△美の極致。/美到极点。
[25]静まり返る⑥【しずまりかえる】
【自动·一类】
万籁俱寂,鸦雀无声。(すっかり静かになる。)
△教授が入って来ると学生たちは静まり返った。/教授进来后学生鸦雀无声。
[26]枚数◎【まいすう】
【名】
张数,件数。(紙·板·皿など、その数を「枚」で数えるものの数。)
△カードの枚数をかぞえる。/数卡片的张数。
△切符の枚数が足りない。/票数不够。
[27]冬芽【とうが】
〈植〉冬芽
[28]偉大◎【いだい】
【形动】
伟大。(優れて大きいこと。りっぱなこと。)
△偉大な祖国。/伟大的祖国。
[29]包み込む◎【つつみこむ】
【他动·一类】
包进去,包在里面。(つつみこむ。また、ふくみこむ。)
△本をふろしきに包み込む。/把书放进包里。
△甘い香りに包み込まれる。/包围在甜甜的香味里。
[30]片隅③◎【かたすみ】
【名】
一隅,(一个)角落。(中央部から離れた目立たないところ。)
△へやの片隅。/屋子的一个角落。
△町の片隅に住む。/住在城镇的偏僻角落里。
[31]一断面【いちだんめん】
一个侧面
[32]多彩◎【たさい】
【名·形動】
(1)(颜色)美丽多彩,彩色缤纷。(色とりどりで美しいこと。)
△多彩な色模様。/美丽多彩的花纹。
(2)丰富多彩『成』。(種類が多く華やかなこと。)
△多彩な催しをくりひろげる。/举行丰富多彩的文娱活动。
[33]愛着◎【あいちゃく】
【名·自动·三类】
留恋,依依难舍,恋恋不能忘怀。(欲望にとらわれて離れられないこと。)
△母校に愛着を感じる。/对母校感到难以忘怀。
[34]研ぎ澄ます③【とぎすます】
【他动·一类】
敏锐,磨快(刀剑等),磨光,擦亮(镜等)。(刃物をよくといで切れるようにする。また、鏡をよくみがいて曇りのないようにする。心の働きを鋭くする。)
△研ぎ澄ました日本刀。/磨快的日本刀。
△研ぎ澄まされた感覚。/敏锐的感觉。
[35]感性◎【かんせい】
【名】
(1)感性,感受性。( 物事を心に深く感じ取る働き。)
△ 豊かな感性。/丰富的感受性。
(2)感性。(外界からの刺激を受け止める感覚的能力。)
△ 感性の世界。/感性世界。
△ 感性論。/感性论。
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