けだし[1] 、一般に他人に固定観念のレッテルを張り、その人の性格や行動を決まり文句で決めつけると、我々の頭の中は明快[2] になり、心が楽になるのは事実である。現実が複雑であったり、世界がとらえどころ[3] がないと、我々は不安になる。とりわけ[4] 、物事[5] を精密[6] に考えることの苦手な人たちは、とかく現象の一面だけを見ることで思考[7] を中断しようとする。蛇[8] は地中に潜るものだし、鳥は空を飛ぶものだ。そう思い込んでいれば、我々は蛇や鳥のそれ以外の微妙な現実について、忘れて暮らすことができる。同じょうに、我々は、地球上にともに生きる他の国民や民族について、常にこまやか[9] な理解を示すほど暇でもなければ、また強い精神力を持っているわけでもない。そこで、エスニック?ジョークから高級な文化論に至るまで、わかりやすい一面的な説明を聞くと、それに飛びつくことになるのだろう。
これに対して、逆に自分自身について、固定観念を持ったり、自分の属する国民や民族に文化的レッテルを貼りたがる性癖[10] は、一見わかりにくい心理のように見える。しかし、これも実は、人生を安易かつ簡単に生きるための、怠け者[11] の知恵だと見ることもできる。というのは、この人生には芝居[12] のような一面があって、人はそれぞれ自分で決めた役を演じ[13] 、そのことにょって心を安らがせる[14] ことができるからである。
例えば、「男らしさ」という言葉があって、かつての男たちは、どこの国でも男らしく生き、男らしく行動するように教育されてきた。すると、仮に人生の悲しい事件にぶつかった[15] 時、人は男らしさという役を演じることによって、それだけで悲しみに耐えることができる。親から習ったり、本で読んだ男らしい人物のことを思い浮かべて、こういう時にはどういう颜をして、どういうひと言を口にすればいいかを考える。そして、それを身をもって再現[16] することによって、無意識のうちに一種のヒーロー[17] を演じて自分を励ますことができる。複雑な人生のそれぞれの局面[18] の中で、一つの行動の形を決めていくのは、だれにとっても簡単なことではない。その場合、もし我々が日本人らしさとか、日本の文化的伝統といった簡单な観念を持っていると、それを演じることによって自分の進路[19] を簡単に選べるにちがいない。歴史を学び、あるいは伝説の中の英雄物語を読み、最も日本人らしい人間はこういう時どう行動するだろうかと考えると、特に危機に臨んだような場合に強くなれるのである。
[1]蓋し①◎【けだし】
【副】
(1)大概,想来,的确,莫非,或许。(かなりの確信をもって推量する意を表す。思うに。確かに。おそらく。たぶん。 )
△蓋し経典と言えるだろう。/大概可以称为经典吧。
(2)万一,如果(与假定形式连用)。恐怕,也许。(与推量、疑问的形式连用)。(疑いの気持ちをもって推量したり仮定したりする意を表す。ひょっとして。もしかして。もしや。 )
△「馬の音のとどともすれば松陰に出でてそ見つる―君かと/万葉 2653」。/馬音之 跡杼登毛為者 松蔭尓 出曽見鶴 若君香跡。
[2]明快◎【めいかい】
【名】【形动】
明快;条理清楚;平明易解。(筋道があきらかでわかりやすいこと。また、そのさま。)
△明快な説明。/明快的解释。
[3]捕らえ所【とらえどころ】
要点,要领,中心.
捕らえ所のない人/没有主心骨的人.
△彼の話は捕らえ所がない/他的话没有要点〔中心〕.
[4]とりわけ◎【とりわけ】
【副】
特别,尤其,格外,分外。(特に。ことに。取り分けて。)
△気温の高い日が続くが今日はとりわけ暑い/连续几天气温都很高,可今天尤其热。
△とりわけ君には目をかけている/对你特别照顾。
[5]物事②【ものごと】
【名】
事物。事与物。所有有形和无形的东西。各种各样的事。(物と事。一切の事柄。)
△物事にとんちゃくしない男。/不把事情放在心上的男人。
△物事はなんでも初めが大切だ。/一切事情都是开头重要;万事开头难。
[6]精密◎【せいみつ】
【名】
精密,细致,精细,精确,精致。(細部まで巧みに作られていること。)
△精密な計画。/精密的计划。
△精密に検査する。/细致地检查。
△精密検査。/精细检查。
△精密機械。/精密机器。
[7]思考◎【しこう】
【名·他动·三类】
思考,考虑。(考えること。)
△君は思考上の誤りを犯している。/你的想法错了。
△思考力。/思考力。
[8]蛇①【へび】
【名】
蛇,长虫『口』。
△蛇にかまれる。/被蛇咬。
△蛇に足を添う。/画蛇添足『成』。
△蛇にかまれて朽ち縄に怖づ。/一朝被蛇咬,三年怕井绳。
△蛇の生殺し。/办事拖拖拉拉;不彻底蛇。
[9]細やか②【こまやか】
【形动】
(1)浓厚,细腻,深厚。(心のこもっている。)
△細やかな交誼。/深厚的友谊。
△情の細やかな人。/细心的人;热情周到的人。
(2)细致,入微。(小さいさま。微小である。)
△細やかな説明。/仔细的说明。
△考えが細やかだ。/想得细致;心细。
(3)意味深长。(微妙で奥深い趣のあるさま。)
△細やかな味わい。/深长的意味。
[10]性癖③【せいへき】
【名】
癖好,毛病,癖性。(性質上のかたより。くせ。)
△うそをつく性癖。/撒谎的毛病。
[11]怠け者⑤【なまけもの】
【名】
(1)懒汉。(よく怠ける人。怠惰な人。)
△あの怠け者には困ったものだ。/对那个懒汉真没办法。
△怠け者の節句働き。/日里闲游,夜里磨油,平素偷懒,别人闲时他才忙。
(2)(南美产的一种)懒猴。(アメリカ目ナマケモノ科の哺乳類の総称。)
[12]芝居◎【しばい】
【名】
(1)〔演劇〕戏剧,戏,剧,话剧。
△芝居を見る/看戏。
△しろうと芝居/票友戏;业余演出。
△芝居の一座/戏班剧团。
△芝居がはねる/散戏;散场。
△村に芝居が掛かる/村里演戏。
△芝居熱に浮かされる/热中于戏剧; 极想当演员。
△その芝居は当たった/那出戏很受欢迎。
△田舎芝居/剧团到农村巡回演出的戏剧; 业余演出的“社戏”; 草台班的蹩脚戏。
△芝居好き/爱好戏剧;戏迷。
(2)〔演技〕演技。
△あの俳優は芝居がへただ/那个演员演得不好。
(3)作戏,花招,假装;[わな]圈套。(つくりごと)
△仕組んだ芝居/做好的圈套。
△ひと芝居打つ/耍一个花招;来一手;搞一个小动作。
△夫婦げんかは芝居だった/两口子打架是假的。
△彼の芝居にだまされるな/别上他的圈套。
[13]演じる◎③【えんじる】
【他动·二类】
表演,扮演。(映画、舞台で演技、演奏を行う。ある役割を務める。人目につくようなこと。)
[14]安らぐ③【やすらぐ】
【自五】
安乐,安稳,舒畅,平静。(安らかな気持ちになる。穏やかな気持ちになる。)
△気分が安らぐ。/心情舒畅。
[15]ぶつかる◎【ぶつかる】
【自動】
(1)碰,撞。(勢い良く突き当たる。)
△壁にぶつかる/撞到墙上;碰壁。
△自動車が電車にぶつかる/汽车撞上电车。
(2)(偶然)遇上,碰上。(障害となるものに出会う。)
△難関にぶつかる/遇到难关。
△1回戦で強敵とぶつかる/第一局碰上劲敌。
(3)冲突,争吵。(対立する。争う。)
△結婚問題で父とぶつかる/在婚姻问题和父亲发生冲突〔争吵〕。
(4)直接谈判;直接试试。(直接ことにあたる。)
△全力でぶつかる/全力以赴。
△実地にぶつかってみる/实际碰碰看。
△直接ぶつかって話をしたほうが早く解決する/直接去谈一下,会早日得到解决。
(5)正当,赶上,适逢.(重なる。かちあう)
△会社の創立記念日が日曜日とぶつかる/公司成立纪念日正赶上星期天。
△その晩は会がふたつぶつかった/那天晚上两个会赶在一起。
[16]再現◎③【さいげん】
【名·自他动·三类】
再现,再次出现,重新出现。(もう一度現れること。また、もう一度現すこと。)
△当時の状況を再現する。/重新布置当时的情况。
△今の取り組みをビデオで再現する。/用录像机再现刚才的一场比赛。
[17]ヒーロー①【ヒーロー】
【名】【英】hero
(1)英雄,勇士,令人钦敬的人物。(英雄。勇士。はなばなしい活躍をした人。)
△一躍、社会のヒーローになる。/一跃成为世上受人钦敬的(中心)人物。
△きょうの試合のヒーロー。/今天比赛中的英雄〔勇士〕。
(2)主人公。(小説·演劇などで,男の主人公。)
△ヒーローの登場だ。/男主人公登场了。
[18]局面◎③【きょくめん】
【名】
(1)棋的局面,棋局。(碁·将棋などの盤の表面。また、その勝負の情勢·成り行き。)
△囲碁において、対局途中の局面を評価し、盤上の配置やハマの数から、どちらの対局者がどの程度優勢かを判断できる。/在围棋中,我们可以通过看棋局,棋盘上的布阵,被吃掉的子的数量来判断对阵的两人拥有多大的优势。
(2)局面,局势,形势。(物事の情勢·成り行き。)
△新しい局面を切り開く。/打开新的局面。
△局面の打開をはかる。/谋求打开局面。
△われわれは局面の展開に注目している。/我们在注视局势的发展。
△局面はまだ好転していない。/局势尚未好转。
[19]進路①【しんろ】
【名】
前进的道路。(進み行く路。ゆくて。)
△台風の進路にあたっている。/正好是台风前移的方向。
△卒業後の進路をきめる。/决定毕业以后做什么。
△人生の進路を誤る。/走错人生的道路。
△進路をさまたげる。/挡住去路。
△進路を切りひらく。/开辟前进的道路。