灯台[1] のある伊佐さ岬[2] を過ぎてから、背後を振り仰ぐ[3] と、崖[4] の上にはりついた[5] ように、ひとかたまり[6] の部落[7] がある。ガイドの言葉を借りれば、「平家[8] の落ちぶれました[9] 部落でぞざいます」ということで、この落人[10] 部落は往時[11] は電気も水道も電話もなく、周囲からまったく孤絶[12] していたそうだ。それが戦時中そこに軍の監視[13] 所が出来たので、道路も通り、おかげで便利になったという。私は奇岩怪石の説明よりも、こういう話のほうが興味がある。あってきたわけじゃないが、平家部落には美男美女[14] がわんさ[15] といるそうである。
そうこうしているうちに、キャビンの中の女性たち何人かが船酔いで吐いた模様である。やっと香住港について、出てきたのをみると、ハンカチを口に当てた人や、顔面[16] 蒼白[17] で船着場の便所[18] に駆け込む[19] 人もいる。お婆さんが多かったのは可哀相だったが、船には強いはずの私もいささかグロッキー[20] である。
波飛沫を浴びながら盛んにカメラのシャッター[21] を切っていたM君も顔色[22] 冴えない[23] 。彼は来月取材でタンカー[24] に乗り込んで[25] 、ペルシャ[26] 湾に行くそうだ。マンモス[27] タンカー[28] も結構だが、「雄壮を誇る大型観光船」もなかなかのもの、「遊覧」というよりは「荒行[29] 」に近く、船に弱い人には奇岩怪石が地獄の光景にも見えようという貴重な二時間であった。
静かな香住の町を、足もとおぼつかなげ[30] にさまよい歩いて、蕎麦屋[31] に入り、熱いきつねうどん[32] を食べたら、息を吹き返した[33] 。
「やっぱり海は遠くから見るに限りますなア。」
「いや、全くですなア。」
ということになり、今後は陸地からのんびり海を眺めることにして、鳥取県[34] に入る。
[1]灯台◎【とうだい】
【名】
(1)灯架。烛台。灯台。旧时搁放灯火的架子。(昔の室内照明具。)
△竹灯台。/竹灯架。
△灯台もと暗し。/丈八灯台,照远不照近。比喻当局者迷。
(2)灯塔。(港口·岬などに築き、夜、光を放って船舶に航路を教える設備。)
△灯台守。/灯塔看守人。
[2]岬◎【みさき】
【名】【日本地名】
岬角;岬;海角(海や湖などの水中に突き出た陸地の先端。さき)。
△岬には灯台がある/海角上有灯塔。
[3]振り仰ぐ【ふりあおぐ】
仰视,仰望.
[4]崖◎【がけ】
【名】
崖,悬崖,绝壁,川崖,河崖。(山や岸などの、険しくそばだった所。)
△崖から落ちる。/从悬崖掉下来。
△崖をよじ登る。/攀登绝壁。
△崖が崩れる。/悬崖塌落。
[5]張り付く【はりつく】
【自动·一类】
(1)贴上,粘上。(紙や布などがぴったりとくっついて、離れなくなる。)
△汗でシャツが背中に張り付く。/汗黏在背后的衬衫上了。
(2)缠着。(特定の人や場所などから離れずにいる。)
△人気歌手に張り付く。/等待期盼人气歌手。
[6]一塊②③【ひとかたまり】
【名】
一块;(全体中不多的)一伙,一帮
[7]部落①【ぶらく】
【名】
(1)小村庄,小渔村。(比較的少数の民家が集まっている地区。共同体としてまとまりをもった地縁団体で、村の単位となる。)
(2)(去过受迫害、歧视的)特殊部落。(身分的·社会的に強い差別待遇を受けてきた人々が集団的に住む地域。江戸時代に形成され、その住民は1871年(明治4)法制上は身分を解放されたが、社会的差別は現在なお完全には根絶されていない。未解放部落。被差別部落。)
△部落解放運動。/部落解放运动。
[8]平家【へいけ】
〈史〉平氏家族P.【名】
(历史上)平氏家族
[9]落ちぶれる④⑤◎【おちぶれる】
【自动·二类】
衰败,落魄『書』,败落,零落,破落,潦倒;沉沦;凋蔽。(身分が下がり貧乏になって、みじめな状態になる。なりさがる。)
△落ちぶれた華族。/没落的贵族。
△家が落ちぶれる。/家道衰微。
△落ちぶれて他郷にさまよう。/穷途潦倒,流落他乡。
[10]落人【おちうど】
おちゅうど败逃者,逃窜者,逃亡者
[11]往時①【おうじ】
【名】
往时,往昔,过去。(過ぎ去った時。以前。)
△往時をしのぶ。/怀念过去;追忆过去。
[12]孤絶【こぜつ】
孤绝,孤独无靠
[13]監視◎【かんし】
【名·サ変他】
监视;监视人。(不都合なことの怒らぬように見張ること。)
△行動を監視する/监视行动。
△国境線を監視する/监视国境线。
△監視に立つ/站岗;放监视哨。
△監視の目をくらまして脱走する/瞒过监视的耳目而脱逃。
[14]美男美女④【びなんびじょ】
【名】
帅哥美女。帅哥靓女。
[15]わんさ【わんさ】
(1)〔大勢の人があつまるようす〕拥挤.
(1)〔大勢の人があつまるようす〕拥挤.
(2)〔物がたくさんあるようす〕很多.
[16]顔面◎③【がんめん】
【名】
脸,面。(顔の表面。)
△顔面に負傷する。/脸上受伤。
△顔面そうはく。/面色苍白。
[17]蒼白◎①【そうはく】
【名】【形动】
苍白。(あおじろいこと。血の気がなく、あおざめていること。また、そのさま。)
△顔面蒼白になる。/脸色变得苍白。
[18]便所③【べんじょ】
【名】
厕所,茅房,便所。(大小便をする所。かわや。はばかり。手洗い。トイレ。)
△水洗便所。/水冲式厕所。
△公衆便所。/公厕;公共厕所。
△便所はいまふさがっている。/厕所里现在有人。
△便所へ行く。/上厕所;如厕。
△便所へ行きたいのですが。/我想上厕所;我想解手。
[19]駆け込む◎③【かけこむ】
【自动·一类】
(1)跑进,跑入里面。(走って中に入る。)
△門の中へ駆け込む。/跑进门里。
(2)跑入有关部分求助等。(援助·保護·相談を求めて関係のある所へ走り込む。)
△詐欺にあって警察に駆け込む。/遭遇诈骗,寻找警察帮助。
[20]グロッキー②【ぐろっきー】
【名】【形动】【英】groggy
(1)(被打得)站不稳,摇摇晃晃。(ボクシングで、相手の打撃や疲労によりふらふらになること。)
(2)累得头昏眼花〔东倒西歪〕。(ひどい疲労でぐったりすること。また、そのさま。)
[21]シャッター②【シャッター】
【名】【英】shutter
(1)快门。(カメラの露光装置。)
△シャッター·スピード。/快门速度。
△シャッターを押す。/按快门(的按钮)。
(2)百叶窗。(よろい戸)
△自動シャッター。/自动百叶窗。
△閉店でシャッターを下ろす。/因关门,放下百叶窗。
[22]顔色◎【がんしょく】
【名】
面色,脸色。(感情の動きの表れた顔のようす。顔つき。)
△顔色をやわらげる。/和颜悦色。
△顔色を変える。/改变脸色,变色。
△顔色を失う。/(惊慌)失色。
△初回に6点もとられてまったく顔色なしだ。/第一局就被对方得了六分,真丢人。
[23]冴える②【さえる】
【自动·二类】
(1)寒冷,寒凉,冷峭,清寒料峭。〔冷えびえする。〕
△冬の夜はしんしんと冴える。/冬天的夜晚冷峭逼人。
(2)清澈,鲜明。〔澄みきる。〕
△さえた月。/清澈的月光,月光如水。
△さえた星空。/清澈的布满星星的天空; 星光灿烂的天空。
△さえた色。/鲜明的颜色。
△さえない色。/暗淡〔灰暗〕的颜色。
△さえた音色。/清脆〔清亮〕的声音。
△雨で紅葉がいちだんと冴える。/雨后红叶更加鲜艳。
(3)清爽;清醒。〔頭がはっきりする。〕
△目がさえてなかなか眠れない。/精神兴奋根本睡不着。
△よく寝たので頭がさえている。/因为睡得好,头脑清醒。
△気分がさえない。/心情不清爽。
△顔色がさえない。/没有生气的脸色。
(4)清晰,灵敏,精巧,纯熟。〔あざやかな。〕
△さえた腕。/熟练的本领;高超的技术。
△頭のさえた人。/头脑敏锐〔清晰〕的人。
(5)挺棒挺棒。〔すばらしい。〕
[24]タンカー①【たんかー】
【名】【英】tanker
油船,油轮。(船内にタンクを備え、石油·液化石油ガス·硫酸などを運送する専用貨物船。ふつうオイルタンカーをさす。)
△マンモス·タンカー。/超级(大型)油船。
[25]乗り込む③【のりこむ】
【自动·一类】
(1)乘上,坐进。(乗客として、また乗員として乗り物の中に入る。)
△彼は京都でこの列車に乗り込んだ。/他是在京都坐上这趟列车的。
△電車がとまると大勢の人がどやどやと乗り込む。/电车一停许多人蜂拥而上。
(2)进入,开进。(乗り物に乗ったまま、中に入る。)
△車で会場に乗り込む。/坐着汽车进入会场。
(3)开进,到达,进入。(勢いこんで、中に入る。)
△わがチームは張り切って球場へ乗り込んだ。/我队精神饱满地进入了球场。
[26]ペルシャ①【ぺるしゃ】
【名】【英】persia
波斯。伊朗的旧称。1935年改名为伊朗。(イランの旧称。イラン高原南西部の古代地方名パールサ(現在のファールス)に由来する。1935 年、国号をイランと改めた。)
[27]マンモス
(1)〈古生物〉毛象máoxiàng,长毛象chángmáoxiàng,猛犸měngmǎ.
(2)〔大規模な〕巨大jùdà,巨型jùxíng;庞然大物páng rán dà wù(成).
▲ ~大学/巨型大学.
▲ ~タンカー/巨型油轮.
▲ ~団地/大批住宅区.
▲ ~都市/特大城市;巨大城市.
[28]タンカー①【たんかー】
【名】【英】tanker
油船,油轮。(船内にタンクを備え、石油·液化石油ガス·硫酸などを運送する専用貨物船。ふつうオイルタンカーをさす。)
△マンモス·タンカー。/超级(大型)油船。
[29]荒行◎【あらぎょう】
【名】
苦修,艰苦修行。(僧や山伏などが激しい苦しみに耐えて行う修行。)
[30]覚束無い◎⑤【おぼつかない】
【形】
(1)可疑,靠不住,没有把握,几乎没希望。(物事の成り行きが疑わしい。うまくいきそうもない。)
△成功は覚束無い。/没指望成功。
(2)不稳当,不安定,令人不放心。(しっかりせず、頼りない。心もとない。)
△覚束無い足取り。/步伐不稳。
[31]蕎麦屋【そばや】
(1)荞麦面条铺.
(1)荞麦面条铺.
(2)卖荞麦面(的人).
[32]きつねうどん【きつねうどん】
加油炸豆腐片和葱花的清汤面.清汤面
[33]吹き返す◎③【ふきかえす】
【自·他·一类】
(1)风向倒转;刮回来。(風などが吹いて、物を裏返しにする。風が吹いてもとの所·状態に戻す。吹きもどす。)
△南風が暑さを吹き返した。/南风又吹来了热气。
(2)恢复呼吸,苏生。(再び呼吸をしはじめる。蘇生する。)
△人工呼吸のおかげで子供は息を吹き返した。/多亏了人工呼吸使孩子又苏醒了。
[34]鳥取県【とっとりけん】
【日本地名】