やがて夏が過ぎ、秋になって、或日のことです。それは木枯し[1] の激しく吹き去った夜更けのことでした。私は寝間着[2] の上にドテラ[3] を羽織って[4] 、その日の午後に洗濯して乾ききらなかった足袋[5] をよく乾かそう[6] として、火鉢[7] の炭火[8] で足袋をあぶって[9] いました。こんな場合には誰しも自分自身だけの考えに耽ったり[10] 、懐手[11] をしたりして、明日の朝は早く起きてやろうなぞと考えがちなものです。そうして炭火であぶっているたびが焦げくさく[12] なっているのにきがつかないことさえあります......その時私は、サワンの甲高い鳴き声を聞きました。その鳴き声は夜更けの静けさを物々しい[13] 騒がしさに転じさせ、確かに戸外では、何かサワンの神経を興奮させる事件が起こったものに違いありません。
私は窓を開いてみました。
「サワン!大きな声で鳴くな。」
けれどサワンの悲鳴はやみませんでした。窓の外の木立[14] はまだ梢[15] にそれぞれ雨滴[16] をためて、幹に手を触れれば幾百もの露[17] [18] が[19] 一時に降り注いだ[20] 出ありましょう。けれど、既によく晴れ渡った月夜[21] でありました。
私は窓を越えて外に出てみました。するとサワンは、私の家の屋根の頂上に立って、その長い首を空に高く差し伸べ、彼としては出来る限り大きな声で鳴いていたのです。彼が首を差し伸ばしている方角[22] の空には、月が――夜更けになって登る月の慣わし[23] として、赤く汚れたいびつな月が光っていました。そうして月の左側から右側の方向に向って、夜空に高く三羽の雁が飛び去っているところでした。私は気がつきました。この三羽の雁とサワンは、空の高いところと屋根の上とで、互いに声に力を込めて鳴き交わしていたのであります。サワンが例えば声を三つ断って[24] 鳴きと、三羽の雁のいずれかが声を三つに断って鳴き、彼等は何かを話し合っていたのに違いありません。察するところサワンは三羽の僚友[25] 達に向って。
「私を一緒に連れて行ってくれ!」
と叫んでいたのでありましょう。
[1]木枯し②【こがらし】
【名】
寒风、秋风。(秋··終わりから冬にかけて吹く強く冷たい風。)
[2]寝間着◎【ねまき】
【名】
睡衣
[3]褞袍【どてら】
(长宽袖的)棉和服,和式棉袍儿.
[4]羽織る②【はおる】
【一类动词】
披上,罩上。··在衣服上。(着物の上からちょっとかけて着る。)
△マントを羽織る。/披上斗篷。
[5]足袋①【たび】
【名】
日本式短布袜R。(足に···く布製の袋状の衣料。親指と他の4本の指を入れる二つの部分に分かれており、かかとの上をこはぜで留める。)
△足袋をは···。/穿布袜。
△足袋をぬぐ。···脱布袜。
△地下足袋。/(当···穿的)胶底布袜。
[6]乾かす③【かわかす】
【他动·一类】
晒干;烤干,烘干;晾干;弄干。(干す,日光や風、火にあてて、ぬれたり湿ったりしているものの水分を取り除く。)
△雨にぬれた洋···をストーブで乾かす。/把被雨淋湿了的西服放在火炉边烤干。
[7]火鉢①【ひばち】
【名】
火盆。(灰を入れ、··に炭火などをいけて、手を暖め、湯茶などを沸かすのに用いる具。木製·金属製·陶器製などがある。)
△火鉢にあたる。/(挨近火盆)烤火。
△火鉢を囲んで座る。/围着火盆坐。
△火鉢に炭をつぐ。/往火盆里加木炭。
[8]炭火◎②【すみび】
【名】
炭火。(木炭で起こ··た火。)
△炭火にあたる。/··炭火。
△炭火で牛肉を焼く。··用炭火烤牛肉。
△炭火をおこ··。/生炭火。
△炭火が消えか··っている。/炭火快(要)灭了。
△炭火がよくおこっている。/炭火很旺。
[9]あぶる②【あぶる】
【自动词·一类】
(1)烤;··。(火にあててこげ目をつける程度に軽く焼く·)
△もちをとろ火であぶる。/用文火烤年糕。
(2)烤干,烘。〔かわかす,〕
(3)烘火取暖。〔あたためる。〕
△ストーブで手をあぶる。/在火炉上烤手.烤,晒,烤干,烘。
[10]耽る②【ふける】
【自动·一类】
(1)耽于,···湎,入迷,沉溺。(ある一つの事に夢中になる。)
△飲酒に耽る。/沉湎于酒。
(2)埋头,专心致志。(熱心にする···いう意を表す。)
△空想に耽···。/想入非非。
△小説を読み···る。/埋头读小说。
△物思い···耽る。/陷入沉思。
[11]懐手④【ふところで】
【名】
(1)两手揣在怀···。(懐に手を入れる。)
(2)游手好闲。(自分は何もしないで。)
△懐手したまま見過ごす。/游手好闲的置之不问。
[12]焦げ臭い③【こげくさい】
【形】
糊焦味的,糊味··。(物が焦げたようなにおいがする。)
△鍋が焦げ臭い。/锅有糊味儿。
[13]ものものしい【物物しい】
(1)〔いかめしい〕森严?
▲空港は~警戒だった/机场上戒备森严?
(2)〔大げさだ〕过分,小题大做(成)?
▲~飾りつけ/过分讲究的装饰?
▲そうものものしくするな/别那么小题大做?
▲~服装で登山する/穿戴得煞有介事的样子去爬山?
[14]木立◎①【こだち】
【名】
树木;树丛。(何本··まとまって生えている木。)
△涼風が木立の上を渡る。/凉风从树梢吹过。
[15]梢◎【こずえ】
【名】
树梢,梢头。(木の··や枝の先端のほう。)
△新梢··切る。/剪掉新枝。
[16]雨滴【うてき】
雨滴,雨点.【名】
雨点
[17]つゆ【露】
(1)〔水滴〕露lù,露水lùshui.
▲~が降りる/下露水.
▲~の珠/露水珠zhū.
(2)〔涙〕泪lèi.
▲目に~を宿す/目中含泪.
(3)〔はかないこと〕短暂duǎnzàn,无常wúcháng.
▲~の命/短暂的生命.
▲~の間もこのことを忘れない/一刻也没忘掉wàngdiào这件事.
(4)〔まったく?少しも〕一点也yīdiǎn yě(不),一点都dōu(不).
▲ご病気だとは~知りませんでした/您病了我一点也不知道.
[18]露①②【つゆ】
【名】
(1)露,露水(空気中···水蒸気が地面近くの冷たい物体の表面に凝結して水滴となったもの。温度が露点以下になるとできる)。
△露が降りる/下··水。
△露の珠/露水珠。
[19]蛾【が】
蛾(子)。
[20]降り注ぐ④【ふりそそぐ】
【自动·一类】
(雨、阳光等)落下来,降下来。((雨や日光などが)降りかかる。そそぐように降る。)
△陽光が降り注ぐ。/阳光照射进来。
△非難の声が降り注ぐ。/非难声纷纷而来。
△降り注いだ冷たい雨···/绵绵降下的冰冷雨滴。
[21]月夜【つきよ】
【名】
月夜。(月のある夜··月光の明るい夜。また、月。月光。つくよ。)
△月夜に釜を抜かれる。/月夜里锅被偷走。太疏忽,太马虎。
[22]方角◎【ほうがく】
【名】
(1)方位。(方位···)
(2)方向。(方向。進路。向き。)
△方角違いの方へ行く。/走错方向。
△火事はどちらの方角だ。/失火是在哪个方向?
△私はよそへ行くといつも方角がわからなくなる。/我一出门就总是分不清东南西北。
[23]慣わし④◎【ならわし】
【名】
习俗;习惯;惯例
[24]断つ①【たつ】
【他动·一类】
(1)切,断。···切りわける。)
△ふたつに断···。/切成两段。
(2)断绝,遮断;消灭。(とめる。)
△交際を断つ。/断绝来(交)往。
△敵の水源を断つ。/切断敌人的水源。
(3)戒,忌。(飲食をやめる。)
△酒を断ってもう半年になる。/戒酒已经半年了。
[25]僚友【りょうゆう】
同事.
太好了!
好!
没有第一课啊