それでも、船に乗って、海を思いのたけ味わいたいと言う気持ちは、いっこう[1] に衰えなかった[2] 。幸いフランスに行くことになり、留学生は船に乗るように、という指示[3] があった。マルセイユ[4] まで三十三日の船旅[5] ――考えただけでも嬉しさで気が遠くなりそうだった。しかし仲間の留学生たちは、なんでそんな無駄なたびをさせるのか、と不満だった。
私は一人海の喜びを満喫[6] するため、四等船室[7] を選んだ。ここは季節労働者用の船室で、留学生が近寄らない[8] ばかりでなく、船底[9] なので、海に近く、丸窓[10] の外は青い波[11] がすれすれ[12] にうねって[13] いる。海が荒れる[14] と、船員[15] が鉄の覆い[16] で丸窓をふさぎ[17] にくる。べッドは鉄パイプ[18] の二段棚にカンパス[19] を張っただけ。 飾りなど何もなく、牢獄[20] さながらだ。
しかし文明の居心地[21] よさはつねに、大自然との直接の接触を遮断[22] する。例えば灼熱[23] の紅海[24] では、船底[25] は四十度を越え、甲板[26] でも燃える暑さだ。勿論一、二等船室は優雅[27] に冷房[28] されているが、それでは、コンラッド[29] の描くこの熱帯の海という荒々しい[30] 野獣[31] のようなものの実体にふれることはできない。限りなく強烈[32] な、素肌[33] ならすぐに火傷[34] を起こす太陽の下でしか、紅海の目くるめく[35] 壮大[36] さは味わえないのである。
私は朝、甲板[37] で激しい[38] 海の風に吹かれながら飲む大カップのコーヒーに満足した。中国人、マレー人、インドネシア[39] 人、ヴェトナム[40] 人たちの喧噪[41] のなかで、甲板に寝そべって[42] へミングウエイ[43] を読むのが、堪らなく[44] 嬉しかった。舳先[45] に立って風を受けていると、まるで大航海時代の冒険者になったような気がした。
[1]いっこう【一向】
完全,全然,一向,总,一点儿也……?
▲~(に)平気だ/完全不在乎?
▲~に驚かない/毫不┏惊慌〔在乎〕?
▲~に便りがない/一点儿消息也没有;总不来信?
[2]衰える③④【おとろえる】【自动·二类】
(1)势头消失。衰弱。(生命力·活動力がすっかり弱った状態になる。)
△体が衰える。/身体衰弱。
△元気が衰える。/精力衰退;精神委顿。
△台風が衰える。/台风减弱。
(2)衰亡。衰败。(勢力をなくした状態になる。落ちぶれる。)
△家門が衰え、幸福が遠のく。/门衰祚薄。
[3]指示①【しじ】【名·サ変他】
(1)指示。〔さししめす···と。〕
△方向を指示した/指···方向。
(2)指示,命令;吩咐『口』。(指図すること。また、その指図、命令。)
△指示をあたえる/给予指示。
△指示を受ける/接受指示。
△指示を仰ぐ/请示。
△指示どおりに行う/按照指示进行。
△指示にそむく/违背指示。
△指示がおりない/命令〔上级指示〕没下来。
△明日の予定を指示する/指···明天的计划。
△8時に集合せよとの指示があった/有指示说要八点集合。
[4]マルセイユ③【マルセイユ】马赛港
(法) Marseille
[5]船旅◎【ふなたび】【名·自动·三类】
坐船旅行,海上旅行。(船に乗ってする旅行。)
△船旅日記。/海上旅行日记。
[6]満喫◎【まんきつ】【名·他动·三类】
(1)吃足,饱尝··(十分に飲み食いする。)
(2)饱尝,玩味,享受。(十分味わう。)
△古都の秋を満喫する。/饱享古都秋色。
△春を満喫する。/充分··受春天。
[7]船室◎【せんしつ】【名】
客舱。(船の中の部屋。特に···乗客用の部屋。キャビン。)
[8]近寄る③【ちかよる】【自动·一类】
(1)挨近,靠近,走近。(近くへ行く。)
△プールに近寄るな。/不要走近游泳池。
(2)接近。(親しくなる。)
△あんな男には近寄らないほうがよい。/不要接近那样的人。
△子どもを火に近寄らせない。/不让孩子靠近火。
△君子危うきに近寄らず。/君子不近危。
△危険!近寄るな。/危险!禁止靠近。
[9]船底◎【ふなぞこ】【名】
(1)船底。(船の底。)
(2)底部成弓形的器具。(器物などの側面の、大きく湾曲しているもの。また、その形。)
△船底枕。/船底状垫木。
[10]まる‐まど【丸窓?円窓】
輪郭の円い窓?
[11]波 [U]
なみ
** [2]〔波〕〈名〉
(1)風などによっておこる?水面の高低運動/由风引起的水面的起伏运动?波?波浪?
△~がよせる/波浪涌过来?
(2)高低や起伏?上がり下がりなどがあること/有高低?起伏或升降等?波动?起伏?
△感情の~/感情的波动?
(3)流れるように動いていくもの/流动似地前进的事物?潮流?
△時代の~/时代的潮流?
(4)振動がつぎつぎにつたわっていく現象/振动依次传播的现象?波?波动?
[12]擦れ擦れ◎【すれすれ】【名·形动】
(1)几乎接触,差一点···上。(触れそうになるくらい近づいていること。また、そのさま。)
△水面擦れ擦れに飛ぶ鳥。/擦着水面飞行的鸟。
[13]うねる②【うねる】【自动·一类】
(1)弯曲,蜿蜒。〔曲がりくねる。〕
△道がうねる。/道路蜿蜒。
(2)起伏,滚动,翻腾。〔起伏する。〕
△波がうねる。/波涛起伏〔翻腾〕。
△遠くにうねる山なみ。/远山起伏。
△無数のたいまつの火が竜のようにうねって動いていた。/无数的火把宛如千万条火龙在滚动。
[14]荒れる◎【あれる】【自动·二类】
(1)闹,乱。(催し·会議などが無秩序な状態になる。)
△彼の生活は近ごろ荒れている。/他的生活近来很荒唐。
(2)乱闹。(乱暴なふるまいをする。)
△馬が荒れる。/马暴跳。
(3)荒芜。(荒廃する。)
(4)天气变坏。(波風などが激しくなる。)
(5)粗糙。(肌のあぶ··けがぬけてかさかさになる。)
△水仕事で手が荒れる。/因为洗涤东西,手皲裂。
(6)文章写法粗乱。(文章の結構がめちゃくちゃだ。)
△筆が荒れる。/笔法乱。
[15]船員 [U]
せんいん
[0]〔船員〕〈名〉
船の乗組員/船上的乘务员?船员?海员?
【類】船乗り?海員?
[16]覆い◎③【おおい】【名】
(1)盖,蒙,罩,遮盖,遮蔽。〔物でおおう。〕
(2)蒙盖物,覆盖物,罩子,套子。〔おおう物。〕
△テーブルに覆いをかける。/给桌子盖上桌布。
△穀物の山に覆いをかける。/苫粮食堆。
△いすの覆い。/椅子套〔罩〕。
[17]塞ぐ◎【ふさぐ】【自他动·一类】
(1)郁闷,不痛快,不快乐,不开心。心情不舒畅。(気分が晴れないでいる。)
△ふさいだ顔。/闷闷不乐的面容;愁眉苦脸。
(2)堵,塞。(ふたをする。みたす。)
△穴を塞ぐ。/堵洞。
△口をふさいで彼にしゃべらせない。/把嘴堵上不让他说话。
△新聞紙で窓のすき間を塞ぐ。/用报纸把窗缝堵上。
(3)占。占据场所地方。(場所を占める。)
(4)挡,阻挡。(さえぎる。)
△自動車が道を塞ぐ。/汽车挡道。
△通り道をふさがぬこと。/请勿堵塞通路。
△敵のかえり道を塞ぐ。/堵住敌人的归路。
[18]パイプ◎【ぱいぷ】【英】pipe
(1)管,导管,管道。(く··。特に、水·ガスなどの輸送に使う管。導管。)
△パイプで水を引く。/用导管引水。
△パイプがつまる。/管子堵住了。
△パイプ·ライン。/输油管。
(2)烟斗,烟嘴。(刻み··バコを吸うのに使う西洋式のキセル。)
△パイプでたばこを吸う。/用烟嘴吸烟。
△パイプにたばこをつめる。/往烟斗里装烟丝(烟叶)。
△パイプをふかす。/吸烟斗。
△パイプをくわえる。/叼着烟斗。
(3)笛,管乐器。(楽器。)
△パイプ·オルガン。/管风琴。
[19]compass
n.罗盘;指南针; 圆规; 界限
[20]牢獄 [U]
ろうごく
[0]〔×牢獄〕〈名〉
犯人をとじこめておくところ/关押犯人的地方?牢狱?监狱?
[21]居心地◎【いごこち】【名】
心情,感觉。(そこに居ると···の心持。)
△このすまいは居···地がよい。/这个住处很舒适。
△このへやはどうも居心地が悪い。/这间屋子总觉得住不舒坦。
△新しいポストの居心地はどうですか。/担任新职位的心情怎样?
[22]遮断◎【しゃだん】【名·他サ】
遮断,截断,切断,隔··,隔绝;拦截,截住;分离;隔离。[電気·電力を]截止,断路,断流。(つづいていたもののながれをさえぎって、とめること。)
△外の音を遮断する/遮断外部声音。
△退路を遮断する/切断退路。
△ここは交通が遮断されている/这里交通被截断了。
△外部との連絡を遮断する/隔绝和外部的联系。
△熱を遮断する/绝热。
△遮断容量/断路容量; 遮断功率。
△遮断装置/切断装置。
[23]灼熱◎【しゃくねつ】【名】【自サ】
炎热;热烈。(金···が熱せられて赤くなること。酷暑や熱烈な恋愛などの意にも用いられる。)
△灼熱の恋。/热恋。
[24]こうかい【紅海】 (アフリカ?アラブ半島間)红海
[25]船底◎【ふなぞこ】【名】
(1)船底。(船の底。)
(2)底部成弓形的器具。(器物などの側面の、大きく湾曲しているもの。また、その形。)
△船底枕。/船底状垫木。
[26]甲板◎【かんぱん】【名】
甲板。(船舶の上部の,木や···板などを張り詰めた広く平らな床。こうはん。デッキ。)
△上甲板。/上甲板。
[27]優雅①【ゆうが】【名·形动】
优雅,文雅,温文尔雅,···尚文雅。(上品でみやびやかなこと。やさしい美しさのあること。)
△優雅な踊り。/优雅的舞蹈。
△立ち居振る舞いを優雅にする。/使举止动作温文尔雅。
△優雅な生活。/悠闲的生··。
[28]冷房◎【れいぼう】【名】【他动·三类】
冷气设备;冷··(屋内を涼しくすること)。
△冷房装置の完備した劇場/设有完善冷气设备的剧院。
△館内を冷房する/馆内(开)放冷气。
△冷房がききすぎると体に毒だ/冷气放得过多对身体有害。
[29]コンラッド【Joseph Conrad】
イギリスの小説家?ポーランドに生まれ?のちイギリスに帰化?船員生活の体験に基づく海洋文学?青春??アフリカを舞台にした中編?闇の奥?のほか??密偵??西欧の眼の下に??ノストローモ?などの政治小説を遺す?(1857~1924)
[30]荒々しい⑤【あらあらしい】【形】
粗暴,粗野。(人の言動··性質や物事の程度などがひどくて、まわりに危害·迷惑·不快などを与える状態だ。)
△荒々しい息づかい。/急促的呼吸。
[31]野獣◎【やじゅう】【名】
野兽.
△野獣派/野兽派.
[32]強烈◎【きょうれつ】【形動】
强烈。力量、作用、刺激···强大而猛烈。(力·作用·刺激が強く激しいこと。また、そのさま。)
△強烈な地震。/强烈的地震。
△強烈な色彩。/强烈的彩色;大红大绿。
△強烈なパンチを浴びせる。/给予强烈的一击。
△強烈な刺激。/强烈··刺激。
[33]素肌①【すはだ】【名】
(1)不施脂粉的皮肤,本来的皮肤。(おしろいなどつけていない肌。)
△彼女は素肌がきれいだ。/她的皮肤细腻。
(2)(裸)露出的(一部分)皮肤。(シャツなどから出たむき出しの肌。)
△素肌にジーパンをはく。/贴着肌肤(光屁股)穿牛仔裤。
(3)(不穿衬衣或贴身衣裤)空心穿衣。(下着を着ていない。)
△素肌にジーパンをはく。/贴着肌肤(光屁股)穿牛仔裤。
[34]火傷◎【かしょう】【名】
火伤,烫伤。(火炎·熱湯や···温物体、熱線などに触れて皮膚が焼けただれること。)
△第2度火傷。/第二度火伤。
[35]目くるめく④【めくるめく】【自五】
头昏眼花;头晕;眼花撩乱
[36]壮大◎【そうだい】【形動】
雄壮,宏大。(他に肩を並···るものが余り無いほど規模が大きい様子。)
△壮大な建て物。/雄伟的建筑物。
△その構想は実に壮大だ。/那个构想实在宏大。
[37]甲板◎【かんぱん】【名】
甲板。(船舶の上部の,木や···板などを張り詰めた広く平らな床。こうはん。デッキ。)
△上甲板。/上甲板。
[38]激しい③【はげしい】【形】
(1)激烈,强烈,猛烈,剧烈(勢いがきわめて強い。鋭く荒々しい)。
△風が激しい/风疾。
△激しい労働/剧烈的劳动。
△激しい欲望/强烈的欲望。
△雨風が激しい/雨暴风狂;暴风骤雨。
△突然激しい痛みがおそった/突然发生剧烈的疼痛。
△激しい感情をこめて言う/感情激动地说。
△議論が激しくなった/争论热烈〔激烈〕起来了。
△激しく敵を攻める/猛烈地进攻敌人。
(2)好冲动(熱烈である。激情的だ)。
(3)很甚,厉害(程度がはなはだしい。普通の度合でない)。
△激しい寒さ/严寒。
△激しい暑さ/酷暑。
△激しい競争に打ち勝つ/在激烈的竞争中获胜。
△この道は車の往来が激しい/这条路车辆来往频繁。
[39]インドネシア④【インドネシア】【名】【英】Indonesia
印度尼西亚Y。(国の名前。)
△インドネシア共和国(首都ジャカルタ)。/印度尼西亚共和国(首都雅加达Y)。
[40]ヴェトナム【Vietnam?越南】
?ベトナム
[41]喧噪◎【けんそう】【名】
喧嚣,嘈杂。(さわがしいこ···。また、その声や音。)
△喧···の巷。/喧闹的街巷。
[42]寝そべる①【ねそべる】【自动·一类】
随便躺卧,伸腿伏卧··(腹ばいになり、両足をのばしてねる。ごろっと横になる。)
△寝そべって本を読む。/躺着看书。
[43]欧内斯特·米勒·海明威
[44]堪る◎【たまる】【自动·一类】
忍耐,受得了,忍受。···保ちつづける。こらえる。がまんできる。)
△負けて堪るものか。/输了叫我怎么受得了!
△毎日このように歩き続けたらどんな靴でも堪らない。/每天像这样不停地走,鞋子怎么受得了。
[45]舳先 [U]
へさき
[3][0]〔×舳先〕〈名〉
船の前の方/船的前部?船头?
【反】とも?